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Re: view – 音楽の鳴る思い出 -/Vol.7 エストレーリャ・デル・ソル from ミント・フィールド

2022年5月28日

photo & text: Estrella Del Sol
translation: Bowen Casey
edit: Yuki Kikuchi

Re: view (音楽の鳴る思い出

この連載は様々なミュージシャンらをゲストに迎え、『一枚のアルバム』から思い出を振り返り、その中に保存されたありとあらゆるものの意義をあらためて見つめ、記録する企画です。


今回の執筆者

https://open.spotify.com/album/5l42UGler5fwv207TkXYtI?si=jz2eHc2kQ4-RxuPFtzfrLA

■名前:エストレーリャ・デル・ソル・サンチェス
■職業:ミュージシャン
■居住地:メキシコ・シティ
■音楽が与えてくれるもの:音楽は最も自分自身を感じさせてくれる安全な場所であり、残りの人生をかけてやりたいことのすべてです。 
■レビューするアルバム:『ロンリズム』 テイム・インパラ

『ロンリズム』 テイム・インパラ

ミー・アフター・ロンリズム

 16歳の頃、私が唯一夢中になれたことは音楽を聴くことだった。家にいるときはもちろん、地元のプラヤス・デ・ティファナを散歩しているとき、学校の休み時間に授業中など、どんな場所や瞬間であろうと、私は好きな音楽を繰り返し聴いていた。

 でもこれだけでは飽き足らなかった高校生の私は、音楽を聴くことと同様にコンサートに行くことにものめり込んでいった。まだ10代だったから母親を説得させるのは大変だったけど、メキシコとアメリカの国境沿いに住んでいたこともあって、好きなアーティストのコンサートに行くには、ただ国境を越えてサンディエゴに行けばよかった。

 そんな時期に出会ったのが、テイム・インパラの『ロンリズム』というアルバムだった。これまでの人生で聴いたことがない斬新なサウンドに私は大きな衝撃を受けた。ギターの弾き方は分からないものの、音楽を作ってみたいという気持ちが芽生えていたその当時の私にとって、このアルバムとの出会いは特別だった。私をギターに向かわせただけでなく、エフェクトペダル、ディストーション、ファズなどにも興味を抱かせてくれたから。

 ある日、好きなバンドのコンサートがサンディエゴで行われないか調べていると、ハウス・オブ・ブルースという会場でテイム・インパラの公演が開催される情報を見つけた。すぐさまその当時付き合っていた彼に話すと、なんと彼は一緒に行こうと、そのコンサートのチケットをプレゼントしてくれた…!

 2013年5月31日。学校にいるあいだは興奮のあまり、授業やクラスメートにまったく注意を払うことが出来なかった。すでに多幸感に包まれる私の頭の中は今夜のことでいっぱいだった。その日の学校はとても早く、また同時にゆっくりと過ぎていき、学校が終わると、私と彼はトロリーに乗ってサンディエゴへと向かった。

 この日のコンサートの規模が400人程度だったことは私にとってとてもラッキーなことだった。テイム・インパラのヴォーカリスト兼ギタリストのケヴィン・パーカーの側に行き、彼が使う二つのペダルボードと、そのペダルを彼がどのように使うかを見れるかもしれなかったからだ。

 会場に到着すると、友人に出会したり、列に並ぶ人たちと仲良くなれた。 その結果、公演を心待ちにするファンに煙草を恵んでもらった私は、ハウス・オブ・ブルースが開場するまで煙草を吹かし、誰もが同じ気持ちでこの場所に集うことの美しさを想った。

 ついにハウス・オブ・ブルースが開場。どんな規模であれ、コンサート会場の独特な雰囲気と迫力にはいつも圧倒されてしまう。私は緊張と興奮を感じながら可能な限り前進し、なんとかステージ近くの三列目を確保した。身動きが取れなくなったあと、ふとステージ横を見ると、フロアを覗くテイム・インパラのメンバーの姿が見えた。彼らも私と同じように緊張しているのだろうか。そう思うと、私はステージをより近くに感じて、彼らに親近感を覚えた。

 ライヴが始まると会場は一瞬にして凄まじい熱気に包まれた。ベース、ドラム、シンセ、ギター、すべての音が一つに溶け込んで、重厚な波のように客席に押し寄せた。このとき生まれて初めて楽器の音を一つ一つ意識したような気がする。私は自分の心の中の感情が大きく膨れ上がっていくのを感じていた。周りを見渡すと誰もが笑顔だった。

 結局ケヴィン・パーカーがどんな風にエフェクトペダルを使っているかを見ることも忘れ、私はバンドが奏でるサウンドに心と身体を委ね続けた。テイム・インパラのコンサートには、彼らの音楽をイヤフォンで聴いているとき以上の感動があった。それは単に彼らの演奏が素晴らしかっただけでなく、音楽を愛する気持ちが一つ同じ場所に集約された事実を体験できたからかもしれない。

 最後の曲 “Nothing That Has Happened So Far Has Been Anything We Could Control”  で、バンドが即興ジャムを繰り返すなか、感動のあまり私は涙を流した。

 あの日のコンサートは、私の中にあった音に対する感覚を変えてくれただけでなく、ライヴでしか感じ得ないことの尊さをあらためて教えてくれた。

 ミュージシャンとして演奏をする立場になったいまも、彼らの音楽を聴くと思い出す、あの日あの場所で感じたことを大切にしている。

文:エストレーリャ・デル・ソル

プロフィール

Estrella Del Sol

エストレーリャ・デル・ソルは、MInt Fieldのギター・ヴォーカルを担当。自身の名義でソロプロジェクトも行っている。Mint Fieldは2015年にデビューEP『Primeras Salidas』をレコーディングして以来、SXSWやコーチェラに出演し、米国とメキシコを広範囲にツアーしてきた。2020年にリリースされた2ndアルバムの『Sentimiento Mundial』ではバンド・サウンドを改革。クラウトロックやシューゲイズ・ファンを虜にするサイケデリックなアルバムは、各国メディアで高評価を獲得した。

YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=CrfWA-aFM-I