TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】Summit Magazine:Sheridan Andersonの表紙たち

執筆:Outdoor Recreation Archive

Outdoor Recreation Archive

text: Outdoor Recreation Archive
translation: Tsukasa Tanimoto
edit: Miu Nakamura

2025年11月1日

1955年、Jean Crenshaw(ジーン・クレンショー)とHelen Kilness(ヘレン・キルネス)は、アメリカ初の月刊クライミング雑誌『Summit(サミット)』を創刊した。彼女たちはカリフォルニア州ビッグベアにある自分たちのキャビンの地下室を使って制作を行っていた。当初はそれぞれ「J.M. Crenshaw」、「H.V.J. Kilness」というイニシャル名義を使っていた。というのも、当時は登山がまだ男性中心のスポーツであり、女性二人が発行する雑誌だと知られれば読者が買わないのではと心配していたからだ。それでも、同誌の編集者や寄稿者の名簿には、Royal Robbins(ロイヤル・ロビンス)、Yvon Chouinard(イヴォン・シュイナード)、Fred Beckey(フレッド・ベッキー)、Arlene Blum(アーリーン・ブルム)など、アメリカを代表する著名なクライマーたちの名が並んでいた。

『Summit』は、日常的なハイキングから大規模な遠征まで幅広く扱う人気情報源となったが、発行部数はあえて1万部に制限された。というのも、二人は自分たちの真のパッションである登山に時間を確保したかったからである。最終的に二人は1989年に雑誌を売却し、その後は季刊誌として再出発したものの、1996年に刊行が終了した。2023年には、年2回発行の『Summit Journal(サミット・ジャーナル)』として復刊し、紙媒体限定で山岳ストーリーテリングと大判の写真表現に焦点を当てている。

質の高い編集で知られていた『Summit』は、同時にそのカバーアートでも知られていた。表紙には、スリリングなアクションショットや息を呑むような風景写真から、遊び心ある抽象表現、あるいは加工を施した写真まで、さまざまなイメージが登場した。なかでも象徴的なのが、イラストレーターでありアウトドア愛好家でもあったSheridan Anderson(シェリダン・アンダーソン)による風変わりなカートゥーン作品である。彼はフライ・フィッシング入門書『Curtis Creek Manifesto(カーティス・クリーク・マニフェスト)』の著者としても知られており、1960〜70年代のアメリカ登山の中心地ヨセミテ国立公園のキャンプ4で多くの夏を過ごし、『Summit』のコミュニティとも深く関わっていた。

彼が手掛けた表紙のひとつに、明るい黄色の背景で「クリーンクライミング」を称える作品がある。クリーンクライミングとは、岩に打ち込むピトンに代わり、岩を傷つけにくいチョックやヘックスを使うことを唱える思想である。アンダーソンの描写では、チョックが打ち負かされたピトンの上に誇らしげに立ち、周囲の山々がそれを祝福している。また別の表紙では、アンダーソンが生真面目だった創刊者のJeanとHelenをからかうように、イラストの中にきわどい要素をこっそり忍ばせる癖が見て取れる。たとえば、黄色と茶色を基調とした一枚では、クライマーのロープを固定する岩の支点が、見る人によっては不適切なハンドサインのようにも見える。

そのようなことがあっても、イラストレーターと編集者二人の関係は常に良好だった。JeanとHelenのキャビンのために「Summit House」と刻まれたピトンをアンダーソンが描いた看板は、何十年ものあいだ、彼女たちの玄関ドアに掛けられていたという。

プロフィール

Outdoor Recreation Archive

ユタ州立大学の図書室に併設された、1900年代から現在までのギアカタログや広告、ブランド資料を蒐集、保存するアーカイブ機関。広報活動と新たなコレクションの発掘を担当するチェイスと、寄贈された資料の整理、記述、保存を担当するクリントによって運営されている。コレクションは1万5000点を超えており、書架は誰にでも開かれている。

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