フード

スペイン料理店『フォンダ サン ジョルディ』/異国の店主と土地の味。Vol.30

インタビュー・土井光

2024年6月13日

異国の店主と土地の味


interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。

『フォンダ サン ジョルディ』店主のウリベ・ジョルディさん。

土井光(以下、土井) ジョルディさんはスペインご出身ということですが、地域はどこですか?

ウリベ・ジョルディ(以下、ジョルディ) スペイン北東部にあるカタルーニャ地方のジローナ県というところです。バルセロナから車で大体1時間くらいの場所。

土井 カタルーニャ地方ですと、サン・ポル・ダ・マールという海辺の小さな村に何度か遊びに行ったことがあります。村には、ミシュラン3つ星の『レストラン サンパウ』(※2018年に閉店)があって、そこに知り合いの料理人がいたのでフランス留学中によく会いに行ってたんです。『レストラン サンパウ』は2004年から東京にも出店していたんですけど(※2023年に閉店)、イベリコ豚のヒレステーキや、カルメシェフの特徴的なミナルディーズ(食後に楽しむ小さなスイーツ)など、当時の日本にはなかった新鮮なお料理で溢れていましたね。美しく、そして美味しい! って感動しちゃいました。

ジョルディ サン・ポル・ダ・マールと私の実家は、車で20分くらいの距離ですよ! しかも、私は来日してからしばらくの間、東京の『レストラン サンパウ』にいたんですよ! 東京店がオープンして数ヶ月経ってから、料理専門学校のときの同級生の紹介で働けることになって。ちょうど20年前ですね。

土井 すごい、一気に話が繋がりましたね! 厨房でのコミュニケーションはスペイン語と日本語どちらでした?

ジョルディ 基本は日本語。日本語学校も行かなかったから、どうにか働きながら覚えていきました。あと、スペインにいる時に結婚した奥さんが日本人なので、とても助けてもらいました。今でも、書類などは手伝ってくれて、奥さんがいなかったら日本での生活も自分のお店も絶対できなかっただろうなって思います。

落ち着いた空気が流れる店内。仕込みやホールを手伝うスタッフはいるが、シェフはジョルディさん1人。「1人でも無理なく作れて美味しいものをお届けしています」とジョルディさん。

土井 奥様に対する感謝の気持ちがとてもよく伝わってきます。『レストラン サンパウ』で働いた後に、独立されたんですか?

ジョルディ 独立はもう少し後。『ティオ・ダンジョウ』や千葉県浦安市にある『ラ・ピカーダ・デ・トレス』など、お店を持つまでにいくつかのスペイン料理店でシェフを務めました。『ティオ・ダンジョウ』は、今私がお店をしているこの場所にあったのですが、調布に移転するタイミングで物件を引き継がせてもらって、2014年に『フォンダ サン ジョルディ』をオープンしました。

土井 以前働いていた場所が自分のお店になったのですね。お料理は、故郷のカタルーニャ地方のものですか?

ジョルディ そうです。地中海に面し、山も多いカタルーニャ地方は、海と山の食材を合わせた料理が特徴です。それに、南フランスと北イタリアと隣接してカルチャーが混ざり合っている場所でもあるので、スペインの中でも独自の食文化があります。パエリアは一般的なライスだけでなく、パスタでも作りますし。

豚の尻尾と甘海老を、カニのソースと煮込んだマル・イ・ムンターニャ。マルは海、ムンターニャは山という意味で、自然豊かなカタルーニャ地方らしい一皿。¥1,500

薄くふわふわな衣で揚げた塩ダラのフリット(手前)と、塩ダラとトマトと黒オリーブのマリネ(奥)。どちらもさっぱりと軽い食べ心地で、ワインのおつまみに最高。各¥1,100

極細のカッペリーニを使った、カタルーニャ地方ならではのパスタのパエリヤ。ワタリガニとムール貝、アサリ、イカなどの魚介類と、トマト、パプリカ、モロッコインゲンなど野菜もたっぷり。ニンニクとオリーブオイル、塩とビネガーが少々入った自家製のアリオリソースを付けながらいただく。1人前¥1,475※2人前から注文可

カタルーニャ地方では主食として愛されているパン・コン・トマテ(1人前¥400)。トーストしたバゲットに、生のニンニクとトマトをすりこんで食べるもので、ジョルディさんに本場流のやり方を伝授してもらった。→

ニンニクを優しく擦る。強く力を加えると辛くなってしまうので、香りがつく程度でOK。

トマトをギュッと潰して、中身を出す。

そしてたっぷり塗る。トマト1個でバゲット3、4枚分は使えて、中身がスカスカになったら皮は食べる。

最後にオリーブオイルをたらり。塩もお好みで。

パン・コン・トマテはそのまま食べても、前菜をのっけながら食べてもいいのだそう。ジョルディさん曰く、「黒オリーブとツナのポテトサラダ(¥900)などをつけて食べるのもおすすめ」。

キャラメルアイスが添えられた焼きリンゴのカタラーナも手作りで用意。甘ったるさのない、上品な味。¥850

土井 パスタのパエリアは、麺のパリパリ食感もいいですし、魚介の旨味もギュッと染み込んでいて美味しいの一言に尽きますね……。手間暇かかっていると思いますが、どのお料理も丁寧に作っていらっしゃるのが美しい見た目と味わいから感じられます。

ジョルディ 嬉しい言葉、ありがとう。カタルーニャ地方の料理は日本では馴染みの深いものではないので、最初の3年間は不安になる日もありました。それでも、自分が届けたいものを心を込めて美味しく作れば大丈夫、大丈夫って心で思い続けて頑張った。そして、だんだんとお客さんが来てくれるようになって、おかげさまで今月で10周年です。

土井 とてもおめでたい時に、こうして取材をさせていただけて私もなんだか嬉しいです。真っ直ぐで優しくて芯のあるジョルディさんの素敵な人柄がお話ししているだけでも伝わってきて、それも含めてお店が愛されているのだなと思います。

土井さんからのコメント。「フランスに住んでいたとき、週末やバカンスに一番よく訪れていたのはスペインのバルセロナでした。スペインは素晴らしい食材をエンターテイメント性も加えた心踊る独自の食文化にしている、と思っています。そんな私の大好きなスペイン料理を、本場の熱量で丁寧にお料理されているジョルディさん。ガストロノミーを経験されているのもあり、一品一品とてもスタイリッシュ。ただ素朴で優しいスペインの家庭料理の要素も入っているのでとても食べやすい。パスタのパエリアは初めて食べましたが、カリカリとした食感がお米以上に際立つのでお酒にも良く合います。最後のデザートまで抜け目のないお仕事に感動しました。10周年という節目にインタビューすることが出てて大変光栄です。ぜひ皆さんも情熱の国スペインの心温まるお料理で大切な人と過ごす居場所として使われてください!」

インフォメーション

フォンダ サン ジョルディ

◯東京都渋谷区恵比寿1-12-5 萩原ビル3 2F ☎︎03・5420・0747 18:00〜23:00 日・月休

今回取材したお店の国について

スペイン料理店『フォンダ サン ジョルディ』/異国の店主と土地の味。Vol.30

スペイン

◯ヨーロッパ南部のイベリア半島の先端。
◯面積は日本の約1.3倍。
◯年間を通して、湿気の少ないカラッとした晴れの日が多い。
◯オリーブオイルの生産量は世界一。
◯国は17つの自治州で成り立ち、地域ごとに地形や気候も違うため、地域色が強い。
◯文化や言語も地域によって様々。
◯各地域ごとの公用語が存在し、カタルーニャにはカタルーニャ語が。
◯ちなみにスペイン人建築家のガウディはカタルーニャ出身。
◯カタルーニャ語で美味しいは、「デリシオス」。


スペイン料理店『フォンダ サン ジョルディ』/異国の店主と土地の味。Vol.30

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