ライフスタイル
【#4】コロラド州レッドビル、山頂を目指さない山の楽しみ方
2022年4月1日
text & photo: Joanna Reiko Sato
アメリカ・コロラド州はロッキー山脈があるアメリカ有数の山岳地帯。その周りのカンザス州やネブラスカ州は何百キロもびっくりするくらい真っ平らな地平線でパンケーキと呼ばれているくらいなのに、コロラドに向かって車を走らせると 突然、ゴツゴツした山脈が見えてくる。
前回のタウントークでお話しした通り、私は学費の安さに釣られてネブラスカ州に住んだものの、やっぱり大好きな山登りの衝動が抑えられずに、卒業と同時にコロラド州に引っ越すことに。平日は、フロントレンジと呼ばれる山の麓の地域 (山の手前にあるので、フロントレンジと呼ばれている)にある剥製工房で仕事をして、週末はレッドビルという標高 3000mの高所にある村で過ごす2拠点生活。

私が滞在していたのは、エルバート山というコロラドで一番高い山の登山口に向かって車を走らせた途中にある小さな家。もともとはこんな感じのボロ小屋だったのを、家主が改築して住めるようにした家。この裏山は、夏になると各地から登山客がやってくる山で、 それを好きな時に登りに行けるという生活は、山好きとしては、なかなかに贅沢な環境。だけど、レッドビルの村の中心部 からだいぶ離れていて、ご近所の家は何百mも先。大抵みんな、電気はソーラー、ガスはプロパン、水道は井戸、そして 冬場の暖房は薪ストーブという、ほぼオフグリッドの生活。僻地の荒野に新たに家を建てるときは、電信柱や水道管を引っ張ってくるより、自給自足したほうが安上がりらしい。

レッドビルに初めて来て驚いたこと。それは、空気が薄いので、シャワーを浴びていて湯気がこもりだすと、すぐに息が苦しくなること。それから、お酒の酔いがはやく回ること。 しかも、町のメキシカンレストランでマルガリータのラージサイズを頼むと、こんなに大きなものが出てくる。レッドビルで呑み慣れると平地ではお酒に強くなるらしく、その分酒量が増えるので非経済的だった。

レッドビルは標高が3000mもあるので、冬が厳しい。道路と玄関の間を行き来できるよう、みんな自家用除雪車を持っている。雪が家の周りに積もるのを防ぐスノーフェンスは強風で壊されやすく、毎年夏になるとどこかしらメンテナンスが必要になる。

地面に杭をたてて、上から重たい鉄の棒をでガシガシ叩いて、フェンスを設置していく。それから倒木を町が安く売ってくれるので、それを集めて薪にする。短い夏の間に万全の冬対策をすると、家の中はとっても暖かく過ごすことができる。薪ストーブの威力は絶大で、半袖でも暑いくらい。周りに家がないのを良いことに、友達と集まって爆音で音楽を鳴らして、飲み明かしたり。都会より、田舎の方が存分に パーティーピーポーを満喫できるという事実にびっくりした。

それにしたって、そもそもなんでこんな山に囲まれた高所の僻地に村が作られたのか。歴史はゴールドラッシュの頃に遡る。この場所もかつては金が採掘されたそうで、一攫千金を狙ってたくさんの人があちこちから引っ越して来たらしい。 ただし、せっかく金を掘り当てて得たお金が泡銭に消えることは珍しいことではなかったとか。レッドビルの歴史に残る一番のお金持ちマダムも晩年は一銭もなかったらしい。金で運命を狂わされるのは人間ばかりではなく、町そのものも同様で、ゴールドラッシュで生まれた町のほとんどは、一瞬の輝きで終わって現在廃墟スポット化している。
数々のゴールドラッシュの町が不遇の運命に終わる中、レッドビルが現在でもある程度の人口と観光地としての人気を保っているのはなぜか?一つ言えることは、レッドビルがコロラド州のアウトドアのメッカとして確たる地位を築いているということ。レッドビル100などの人気トレランレースがあるほか、周囲をいくつもの4000m峰に囲まれている。その中でも標高14000フィート(4267m)を超えるものはフォーティナーズと呼ばれていて、その多くがレッドビルのすぐそばにある。山を愛する人が向かう町がレッドビル。そして厳しい自然の中、山に愛された人だけが住める町、でもあるのかもしれない。そして私がレッドビルでの生活を通じて発見したこと。それは、山頂を目指さない山の楽しみ方。

レッドビルの山中を歩いているとあちこちで発見するのが、 ゴールドラッシュの痕跡。たまにビーバーダムを渡ったりしながら、山の中をあちこち歩き回ると、ものすごい発見があったりする。

ちょっと危ないけれど、採掘のために大昔に掘られた穴の痕跡を見つけたり。当時使われていた釘やレールなど、貴重なものを拾えたり。そういうのを材料に家具を作る人もいる。

実際に鉱石を集積していた大きな小屋は、レッドビルの冬も耐えられるように丈夫に造られていて、今でも立派に残っているものもある。ゴールドラッシュの頃というのは、その場所できちんとした 採掘の基盤が確保されるまではテントで暮らしていたらしく、鉱夫はある意味ノマドな生活でもあったらしい。そして実際に採掘が軌道に乗ると、人で賑わうようになり、バーや食堂のような小屋が建てられて、少しずつ町らしく発展していったという。
木造の建造物の跡が残っているということは、それだけその場所が栄えていたという証拠でもある。だけど小さな集落はもう、「ここが集落だったのかも」とかろうじてわかるくらいに朽ちていたりする。

実はレッドビルも当初は、こういった山の中腹を中心に集落が築かれていたらしい。だけど採掘の調子が良くてだんだん範囲が拡大、これでは採掘の邪魔になるということで、山の麓に町を作り直したらしい。出るかどうかわからない金を探して、レッドビルの高山地帯までやってきて。ゴールドラッシュの時代、現代的な道具もなく、人力で穴を掘り進め。どれぐらい物資か乏しかったかといえば、掘った穴にガスが発生しているかを確認するための警報装置の代わりに、カゴの中に鳥を入れて持ち歩き、鳥が苦しみ出したら人間も退避するような時代。そんな時代にレッドビルを生きた人たちのタフさを想像して、ワクワクする。
ゴールドラッシュの頃に集まったのが、金を夢見る労働者なら、近代のレッドビルは自由を求めるヒッピーが集まった土 地でもあるらしい。友人が土地を買ったら、乗り捨てられたトラックやらキャンピングカーが放置されていた。車内に残されていたのは、未開封の封筒に入った、古い手紙。その近くには、何やら手作り感のある怪しい電信柱も見つけてしまった。ここにどんな人たちが住んでいたのか、想像すると、ワクワクする。ふらっと山に入って、これだけのロマンとワクワクに出会える町が、レッドビル。私の一番の、お気に入りの町。
プロフィール
佐藤ジョアナ玲子
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