カルチャー

しまおまほのセクよろ/season2

第7回:セックスシンボル。

2021年12月17日

text & illustration: Maho Shimao
2022年1月 897号初出

 1994年のある日。高校の教室、自習時間だった。開始から30分過ぎのこと、昼食の時間が近づいていた。生徒たちは机に向かうのも飽きて、腕を回したり、首をひねったり。すでに姿を消している不良もいる。わたしも大あくびをしながら思いっきり腕と脚を伸ばした。

「ううぅぅ~ん! ふああぁ……」

 思わず大きな吐息が漏れた。先生もいないし、まあいいか……。と、ノートに再び向かおうとすると、斜め後ろの席の男子・リョウくんからいきなり椅子をガンッと蹴られたのだ。恐る恐る振り返ると、こちらを睨んでる。え? わたしなんか悪いことした? 目を丸くしているわたしと、目を三角にしてますます睨みをきかせるリョウくんの視線が交差したまま時が止まった。考えうるとしたら……今のあくび? しかし、リョウくんは自習中のあくびを咎めるほど真面目な生徒じゃない。どちらかというと、今ごろ校舎の裏で仲間とたむろしていてもおかしくないタイプ。どのくらい見つめあっただろうか、多分3秒くらい。そしてリョウくんは怒気を含んだ一言をわたしに放ったのだ。

「マドンナみたいな声出してんじゃねえ!」

「え? マ、ドンナ……?」

 よく意味が理解できずに面食らっているわたしにリョウくんはご丁寧にもう一度怒気を含んで解説してくれた。

「セクシーな声出してんじゃねえよ!」

 ……どうやら、あくびの時の吐息が喘ぎ声に聞こえたらしい。意味がわかった途端、わたしは赤面した。そんな声を教室中に聞こえるくらいあげていたなんて~。

 しかし、チョット、待てよ? 冷静に考えたら男子は普通そういうのに喜ばない? フツー。リョウくん、すげー怒ってたよな……涙目で。

 当時のわたしはクッキーの食べすぎで丸くなった顔に細眉(母に「つんく」と呼ばれていた)、流行りのバミューダパンツを無理矢理はいて練馬大根みたいな脚をにょっきり出して歩いていた。しかも、足元は下駄。おしゃれのつもりで。男子からしたら、オマエのセクシー声なんて聞きたくねーよ! ってことだったんでしょう。いやらしい声が聞こえて、思わず顔を上げたら声の主がわたしで腹が立ったんでしょう。

「ご、ごめん……」

 一応謝ったけど、その後の昼飯までモヤモヤして。果たして「ごめん」で正解だったのか? って母の作った海苔弁食べながら。毎日海苔弁だったなあ。あの頃。

 それにしても「マドンナみたいな声」ってねえ。あの時代のセックスシンボルだったとはいえ。一瞬誉められたのかな? って思いました。

プロフィール

しまおまほ

漫画家、エッセイスト。1978年、東京都生まれ。最新著は子供にインタビューしたルポルタージュエッセイ『しまおまほのおしえてコドモNOW!』。