ライフスタイル

【#1】異世界を楽しむ。

執筆: フモフモ編集長

2021年10月10日

photo & text: fumofumohenshucho
edit: Yukako Kazuno

 スポーツ観戦というのは旅行に似ています。旅行そのものかもしれません。特に、自分がよく知らない競技、現地で見たことのない競技は。そこには自分たちが暮らす日常の世界とは異なる、その競技ならではの世界が広がっています。スタジアムのなかは小さな異世界なのです。

 たとえば建物。スタジアムはその競技を行なうために作られています。もちろん複数の競技で共用するようなことはありますが、競技のための機能を備えることで、日常の世界とはまったく異なる様相となります。広大な緑の芝生、数万の椅子、登るために作られたそり立つ巨大な壁…思わず写真を撮りたくなるような名所ぞろいです。

ビルの3階ほどの高さの、人間が登る用の壁。

 集う人も異界の人のようです。着ている服が違い、知らない言葉を話し、見慣れない行動をしています。応援するチームのユニフォームを着た人が歌う知らない歌。場内実況が使う知らない単語。謎の儀式。それを知らないからとシャットアウトするのではなく、なんだろう?と関心をもってみることで新しい刺激を受けることができます。おなじみの大相撲でも、千秋楽のあとに土俵の上で胴上げをしていることなどは、テレビ中継では映らないので、あまり知られていないですよね。知らないからこそ新鮮な驚きがあります。

力士が胴上げをする謎の儀式。

 そこで食べるご飯や、買うお土産もまた特別な体験です。チームの名前がついていたり、選手の名前がついていたり、その地域の名物だったり。美味しいかどうか買うかどうかはさておき、その世界の風土というものを体感することができます。ひとつひとつが特別な思い出となるものです。

アマゾンでは売っていない異界の書物。

 「その競技のためだけに特化された世界」に門外漢としての自分が紛れ込んだとき、世のなかにはたくさんの人がいて、知らない楽しみがあって、さまざまな文化があるのだと感じることができます。テレビで見るスポーツというのは、試合内容や試合結果を楽しむことが多いですが、現地で見るスポーツは試合以外の部分にこそ発見と驚きがあふれています。だから、競技についての知識や情報を持たない人こそ、スポーツ観戦という体験は実り多いものになると思うのです。それは一度も行ったことのない国を、予備情報を持たずに旅行するような話ですから。

 スポーツ観戦に伴う旅行のことを指す「スポーツツーリズム」という言葉がありますが、これなどもまさにスポーツ観戦と旅行との共通性を示すものです。応援するチームの試合を、わざわざ対戦相手の本拠地まで見に行く「アウェー観戦」というスタイルは、スポーツで特に際立つ文化でしょう。年間に何回も自分の家の近くでやっているものを、わざわざ遠くの都道府県や、ときには外国まで見に行くというのは「旅行好き」という側面があればこそです。

 コロナ禍も少し落ち着きを見せていますが、まだまだ遠隔地への移動はためらいもある昨今。「ここじゃない、どこかへ」という異世界を求める気持ちがある人は、ご近所でやっている見たことのないスポーツを観戦しに行ってみるとよいのではないでしょうか。そこでは旅行で得られる気持ちと同じものを、きっと得られると思いますので。今こそ、近所にある小さな異世界へ。

見知らぬスタジアムに足を踏み入れると、五感すべてが刺激されて、新鮮な気持ちになれる気がします。

プロフィール

フモフモ編集長

プロフェッショナル・スポーツ・ブロガー。サッカー、野球、大相撲、バレーボール、フィギュアスケートなど日本のスポーツ界を広く生温かく見守るぬいぐるみ。2005年3月にライブドアブログにて「スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム」を開設、人気サイトに。著書に『自由すぎるオリンピック観戦術』(ぱる出版)がある。

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