フード
日本最古のハンバーガー屋を訪ねて。
仙台の繁華街のど真ん中に、知る人ぞ知る本物のヴィンテージ・ハンバーガー屋があった。
2021年8月10日
photo: Keisuke Fukamizu
text: Kosuke Ide
2018年9月 857号初出
※年齢などは取材当時のまま掲載しています。
何につけても「元祖」や「日本最古」ってのはそう簡単に決められないもんだけれど、これは間違いなく「”現存する”日本最古のハンバーガー屋」。何せ、歴史がハンパじゃない。昭和アメリカンなテイストがナイスなロゴとともに、看板の隅に堂々と掲げられた「Est.1950」の字。そう、仙台市青葉『ほそやのサンド』は何と1950年創業。覚えておいてほしいのは、アメリカで起業家レイ・クロックが〈マクドナルド〉を創業したのが’55年、日本の第1号店を銀座に開いたのは’71年ってこと。ぶっちぎりの老舗中の老舗が、この東北の地で60年以上の時を刻み続けてきたのだ。
「もともとは戦後、山形の東根にあった米軍キャンプで下士官クラブのマネージャーとして働いていた父が、そこで学んだサンドイッチやハンバーガーを出す店を開いたのが始まりです。当時の日本ではまだサンドイッチは珍しく、最初は売れなくて苦労したらしいですが、近隣の大学の外国人の先生や新しいもの好きの新聞記者の方々などが通い始めてくれたそうです」と話すのは、クラシックなGI帽とスカーフ&エプロン姿がシブい店主の細谷正弘さん。
’53年にここ仙台・国分町に出店して以来、ずっと変わらぬ店舗のすべてのディテールが、世に蔓延る「フェイク・ヴィンテージ」には決して出せない“本物”の空気を放ちまくっている。使い込んだ木製カウンター、手書き文字のメニュー表、年代物のコカ・コーラのポスター。入り口で長年客を迎え続ける「ダンディー君」も今やすっかり日焼けして健康的な褐色の肌になった。「昔は近くに洋画専門の映画館があって、映画を観た帰りにここでハンバーガーとコーヒーで食事するのが“定番”コースになっていた時代もありましたね」
この店と“同い年”、65歳の正弘さん(※取材当時)にとってハンバーガーは「オフクロ&オヤジの味」。「小学生の頃、弁当によくハンバーガーが入っててね。友人に自分のと交換してくれとよくねだられました」。大学を出た後は東京や海外で長く働いていたが、父と共に店を切り盛りしてきた母が亡くなったのを機に、48歳にして思い切って仕事を辞め、店に立つようになった。
HOSOYA’S SANDWICH HAMBURGER
Width 95mm
Weight 143g
68年の伝統を物語るハンバーガー。(※取材当時)バーガー類はテイクアウトも可で、その際には写真のビニール袋に包んでもらえる。歴史ある看板のグラフィックをプリントした見た目もいい。¥350
「ほそや」の名物ハンバーガーは和牛100%のパティに玉葱の薄切りを挟んだシンプルなものだが、スパイスのしっかり効いた手捏ねハンバーグをひとつひとつ丁寧に焼き上げ、自家製のソース&マヨネーズと和えて特注のバンズに挟んだその味には奥行きがある。
作り方の基本は先代の遺したレシピを守っているが、「店を長く続けていると、ずっと同じじゃいけないんですよね」と正弘さんは言う。「コンビニのお惣菜だって昔よりおいしくなってるでしょ? それだけお客さんの舌は肥えてるんです。だから、ウチも数年に一度は少しずつ味付けを調整して変化させています。ウチには3代続く常連さんもいますが、『昔は良かったけど、味が落ちたね』と言われたらおしまいですから」。暑い夏場は少しだけ塩気を多めにしたりと、季節や気候に合わせて細やかな心配りをしているというこのこだわりのバーガー、何と350円というから信じられない。「能書きナシ」のもの言わぬバーガーから、老舗のプライドがビンビン伝わってくる。
2010年に亡くなる直前まで店に立ち続けたという初代から店を受け継いで8年、1年半ほど前から、「子供の頃からこの店を継ぎたいと思っていた」という長男の暁裕さんも一緒に店に立ち始めた。3代続く老舗ハンバーガー屋なんて今や本場アメリカにだって多くはない。「何とか100年までやってみたいですね」とは3代目の頼もしい言葉。「日本最古」の“ディフェンディング・チャンピオン”の座は、まだまだ譲られそうにないのである。
インフォメーション
ほそやのサンド
◯宮城県仙台市青葉区国分町2-10-7 大内ビル1F ☎︎022・223・9228 11:30〜22:00、日・祝〜20:00 無休(コロナウイルスの影響により営業時間に変更あり)
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