フード
あ〜、安曇野のスープカレーを。
スープカレーが初めて美味しいと思えた思い出の味。
2021年5月12日
photo: Naoki Honjo
text: Tamio Ogasawara
2017年8月 844号初出
北アルプスの麓のとっておきのスープカレーを
食べに行こうと思いついたのは一昨日のことだった。
どうせ足を延ばすのなら知多半島(名古屋からずっと南)の海辺にある『南洋の父 サウス』のカレーを食べてみたいと思っていたのだけど、ふとやっぱり思い直して、なかなか行けずにいたあの店に行ってみることにした。もともとは横浜の綱島にあったのだが、数年前のある日食べに行ったら突如なくなっていたスープカレーの名店だ(しばらく店の前で途方に暮れていた)。経験はないが、家に帰ったらいるはずの彼女がいなかった系である。『スープカレー ハンジロー』。スープカレーが初めて美味しいと思えた思い出の味。スープとしては旨いけど、ライスと全然合ってねえじゃねーかと感じていたスープカレーの概念をまるで変えてくれた店。東京にあれば絶対大行列でしょ、と当時は思っていたものだが、移った先は長野の松本よりもさらに北だった。えっ、スープカレーって札幌じゃないの? って思うでしょ。そう、『ハンジロー』の店主はもちろん札幌仕込みだ、旨いスープカレーは安曇野にある!
東京からは車で3時間。安曇野といえばワサビだと聞いていたが、高速を降りてさっそく日本一だという「大王わさび農場」を横目に着いた『ハンジロー』のロケーションは絶景だった。
奥に見えるのは北アルプス。雪が残っているのは穂高とか槍ヶ岳かな。脇には穂高川が流れていて、隣のいけすでは信州サーモンが元気よく泳いでいる。深呼吸をすると清々しい空気に混じって、スープカレーのいい匂い。待合室が店内にも小川を挟んだ離れにもあるんだなと思いつつ、開店の11時に一番乗り。何を頼もうかな。悩んでいるフリをしているだけでもう決めている。そう、シーフードスープカレーだ。山でもシーフード。でも、これが昔からとにかく旨い。スープの濃さは使う素材と煮込みの手間暇に他ならない。この“濃さ”を出せるか出せないかがスープカレーの違いでもある。「今は煮込む間に草刈りをしています(笑)」と、店主の藤井拓也さん。窓際のカウンター席に座り、眼前に流れる小川と横の小窓から覗く山を眺めて、しばし待つ。
さあ、久しぶりの味はどうだろう。スープに魚介のエキスがよく染み込む。あー旨い。ご飯と味噌汁のように相性がよくてほっとする。さらに美味しくなったような気がしたので聞いてみたら、安曇野の地下水のおかげだと教えてくれた。
これで値段は1,830円(税込)。これを高いと思うのか? スープに使う材料と時間を考えたら、これでも全然合わない。そもそもが高いという認識のビーフシチューのように思えば、3000円でもいいくらい。ごちそうさまと、店を出るときに一番びっくりしたんだけど、2つの待合室が満員だ! ここって安曇野だよね?
『ハンジロー』のまわりにもそんな小さな川がたくさん流れていた。
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