TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】「Stich by Stich」はじまりは…

執筆:中野有紗

2026年1月12日

私はとにかく刺繍が好き。それは可愛さだけじゃなくて、刺繍を通して自分だけの世界に入り込める大切な時間。自分の小さなアイデアを紡いでいくその過程が好きということ。

キッカケは、ある日マネージャーさんが持っていた映画『PERFECT DAYS』のノベルティのトートバッグの刺繍。聞くところ、ヴィム・ヴェンダース監督のイラストを刺繍でぷっくりと埋めてみたとのこと。

「可愛い! 私もやってみたい!」 私のやる気スイッチは一度入ってしまうともう止められない!
自宅に帰ると一目散に母の裁縫道具を引っ張り出し、見よう見まねで始めてみた。
色々な糸を重ねて豊かな色彩が描かれていく。自分の手の動きに、やればできるじゃないか!と自画自賛したりして…
私のトートバッグにいるヴェンダース監督が、なんだか一段とご機嫌に見えてきた。

あえて全面を縫わず、ワンポイント刺繍でアクセントを加えた。個人的には、眉毛の刺繍に遊び心があって気に入っている。

その日以来、ふと気がつけば、軽く3時間は経っていることがある。
そろそろやめなきゃと頭では分かっているけれど、手はなかなか言うことを聞かない。
渋々針を置いた後に残るその名残惜しさも、実はちょっと好きだったりする。
刺繍には時間の流れを早くする魔法があるのかもしれない。

展示会のノベルティでいただいたトートバッグ。
モノクロのイラストが可愛くてパールやビーズを添えて刺繍を施してみると、キラキラと輝いて自然と愛着が湧いて来る。

次は何を刺そうかな? そんなことを考える時間も、刺繍の楽しみ。
刺繍を通して、自分の想像と創造が少しずつ形になっていく。
その過程こそが、今の私を支えているのかもしれない。

プロフィール

中野有紗

なかの・ありさ|俳優、モデル。2005年、東京都生まれ。モデルとして雑誌や広告で活躍し、俳優としても映画やドラマなどに出演。’23年、巨匠ヴィム・ヴェンダースが監督した映画『PERFECT DAYS』に抜擢。’25年、出演したドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』が話題を呼び、映画『この夏の星を見る』で第17回TAMA映画祭賞・最優秀新進女優賞を、また第39回高崎映画祭・最優秀新進俳優賞をそれぞれ受賞した。