TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】図鑑の表紙ができるまで

執筆:草柳佳昭(小学館の図鑑NEO編集部)

2025年11月11日

図鑑の表紙を考えることになった。『図鑑NEO新版 岩石・鉱物・化石』という、石がテーマの図鑑。

図鑑の表紙では、なにかメインの写真やイラストを大きく配置することが多い。恐竜ならばティラノサウルス、昆虫ならばカブトムシといった、そのジャンルで真っ先に思い浮かべるスターたちだ。

表紙のメインを飾るこのスターたちの写真は、タイトルよりも大切とすら言えるので、とても神経を使う。

メインを飾る写真やイラストには、並々ならぬこだわりが

では石の代表選手といえば何か、考えてみた。

さすがに石ころや岩石では地味すぎるので、鉱物で考えてみる。鉱物といえば、地球が自然の力で作り出している「結晶」だ。

いろいろな形の結晶があるが、子どもたちが鉱物といってまず思い浮かべるのはやはり「水晶」だろう。先が尖り、ニョキニョキと長い六角柱のような形をしている。

透明の水晶では目立たないので、カラフルな「紫水晶(アメシスト)」を表紙にすることに決めた。

図鑑作りでは、すでに写真家が撮影してストックされている写真を使うことも多い。

海外の写真サイトなどで紫水晶をひと通り見たところ、あることに気がついた。「ニョキニョキと長い紫水晶」は、ほとんど無いのだ。

調べてみると、水晶らしく長い結晶をもつ紫水晶は世界でもかなり珍しく、おもにメキシコのベラクルスという地で採れるものであることがわかった。

表紙のメインとなれば、アップに耐える美しい紫水晶である必要があるうえ、さらには赤い図鑑タイトルのロゴを避けるように結晶が生えていることも必須だ。

かなりの無理難題である。この時点で、新たに撮影しなくてはならないと心に決めた。

そうなれば、モデルとなる紫水晶探しだ。しかし博物館や、鉱物標本ショップを探し回ってみても、有力な紫水晶はまったく見つからない。しかし締切は迫ってくる。

もうだめだ……諦めかけていたとき、別の編集者から情報が入った。インターネットの鉱物ショップで売られている標本が、なかなか良さそうという話だった。

実物を見ることができないので、表紙に使えるような結晶が見つかるかはギャンブルだった。

購入した紫水晶のクラスター(結晶の集まり)

届いた標本には美しい結晶がたくさんついていた。しかし、結晶同士がくっつきすぎていたり、離れすぎていたりして、なかなかここだという結晶は見つからない…

カメラマンと何時間も角度を探って、ようやく見つけ出したのが、表紙に採用したごく小さな2つの結晶だった。

左端の小さな2つが、表紙に採用した結晶

図鑑編集者は、表紙に命をかけている。書店に並ぶさまざまな学習図鑑をみると、その裏にある苦労をちょっとだけ想像してしまう。

プロフィール

草柳佳昭

くさやなぎ・よしあき|1989年、神奈川県生まれ。小学館 図鑑編集部 デスク。自然系出版社を経て、2021年に小学館に入社。以降図鑑編集部に所属。担当した図鑑に、小学館の図鑑NEO新版 『岩石・鉱物・化石』、小学館の図鑑NEO『メダカ・金魚・熱帯魚』など。実家がうなぎ店で、家の近所に海や川もあったことから、小さい頃から魚に興味を持つ。現在も、魚採集が趣味。


小学館の図鑑NEO

2002年に創刊した図鑑シリーズ。最新の研究に基づいた本格的な内容と、緻密な写真やイラストが人気で、累計発行部数は1500万部を超える。恐竜、動物、昆虫などの生き物を取り上げたもののほか、鉄道や大むかしの生物、科学の実験など、子どもも大人も楽しめる多様な展開が特徴。ハンディサイズのNEOぽけっと『鉱物・宝石』『音楽』が好評発売中。

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