TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】人類史上初!かもしれない

執筆:織咲誠

2025年11月14日

はじめまして。インターデザインアーティスト/ダンボール社会学者なる耳慣れない活動をしている、織咲誠と申します。
連載を終えるまでには、なるほど……これからの時代の仕事かも……と共感していただけるように進めていきたいです。

1998年に英国の『habitat』で行った展示「Hole Works Love ColoNY / #1 1987-1991」。
大賞受賞。しばらくして、アートメッセージや問題提起では世間には力及ばず感が残り、軸足をデザインに移行した。

27年ぶりのART個展を再スタートした本年2025(1998年に英国の『habitat』で「Hole Works」展を行ったのが最後)。
お陰様と還暦が重なり、終活フレッシュな気持ちとして、「チャレンジしつづけて→ この世から消える!」という自分に負荷をかける心地よさをあらためて認識しています。
世のホワイトな流れに逆行で申しわけないですが、白黒言ってられない“ブラックホール”的~な働き方が性に合っています。

ギリギリに追い込まれないと開かない扉もあります! 
ということで、私はゾーンに入る方法として「限界」を利用します。
これらはあくまで私個人にのみ、他者に望むことは無いのでご安心を。
(ここは職種による部分が大きく、エッセンシャルワーク等は余裕が要なのは理解できます。)

みなさんと共有できそうな感覚としては、
「自転車などで転ぶ瞬間の地面に“虫の死骸や100円玉がスローモーションで見える”」アレ。
ケガを回避するための高速度処理で、外界と自分とのやりとりができてる状態。火事場の馬鹿力とも言えます。
はたまた、スポーツなどで中盤や最終に疲れが出てきている頃なのに、逆に力みが無くなるアレ。
視覚や感覚の新領域が稼働して、絶好調になったりした経験があるでしょう。

そんな「(適度な)負荷」ってとても大事だと思いませんか?

負荷と言えば「美学」も負荷領域に属するものだと思います。コダワリと言うより、自己と環境との対話を極める。普通はやらないところまで徹底的に求める、はた迷惑なそれです(当人は普通で当たり前と思っているw)。

ARTからデザインへ──光や空気と共にあるデザイン── Hole_worksカードの影にメッセージが現れる。

〈E&Y〉のDMシリーズGD仕事は確たるファンを産んだ。日本国内数百枚なのに、なぜか海の向こうまで反響が……。フランスデザイン界の雄フィリップ・スタルクより「日本人ADを求む」との手紙が来てロンドンで面会(協働ならずでしたが、スタルク氏はその後「Holeworks」インスパイア作品を続出)。

それは、お金やマンパワーの類いでは叶えられない自然の摂理や「美しさ」を求めることで到達できるはず。

私がやっているインターデザインとは、各分野のデザインに心得があり重なる部分「間/インター」なところで活動を行うデザインでありアート。

やや飛躍がありますが医学で例えれば、対処療法的で即効性のある西洋医学は「デザイン」、心とからだのオーガニックな部分に作用する漢方や東洋医学は「アート」ととらえています。

例えば、交通事故で血が流れている場面では東洋医学が役に立たない様に、アートには届かないところがあって、デザインいう処方が日常の問題に有効なのは容易に理解できるでしょう。
一方、これは乱暴な断定になってしまうかもしれませんが、「デザインをみて涙した人はいないでしょう」と言う持論があります。心や無意識領域に染み届けるのはアートならではのこと。

アーティストの内藤礼さんが手掛けた豊島美術館 の「母型」は、その代表と言えるような素晴らしいもので。腰を抜かしたように床に崩れ落ち、涙し、全身で体感・観賞している人の姿を何人も見ました。内藤礼さんの姿勢が一瞬みてとれるめずらしいものです(公式サイトはこちら)。

理想は両方、 統合されたものです。つまり、「どちらか?」を超えて「どちらも!」という、トータルな創造性を総合的にまとめ上げる仕事をインターワークスと呼び、体得には時間のかかる仕事です。自然と人工を一緒くたに繋ぐような。やっと人生、今から本格始動といった状況で、その成果物、第一号が私の個展「進化な箱 hug-Box♡」です。

具体的で誰にでもできる可能性の話として「ダンボール箱」をお題に、ダンボールの発明から約170年間、常識と言うか構造上不可能だった「厚みに対する必須の溝を取り去る」ことを実現しました(今は知財やその他の事情により詳細はまたの機会に)。

産業界の経済性、デザイン界の合理性では、史上……越えることができなかった「分断する溝」を美学というアート・アプローチで4〜5年間もかかって踏破しました。同時に平面から箱立体へワンアクションで行き来できる融合構造は、人類史上初!かもしれない。そんな箱(箱のOS)がここ日本から誕生してしまった!

人類とか大袈裟な……と言う人がほとんどですがw、実際に手にした人は真顔になって「そうかも……しれない」と呟いていました。

手にした人の声の一部。
1.「起きてるのに目が覚めました!」 堀木淳一|有限会社 竹内紙器製作所
2.「平面と立体を行き来する、新しいことばの誕生に立ち会おうとしているに違いありません」中山英之|建築家
3.「誰もが当たり前と思っていた場所にこそ、革新の余地があることを教えてくれる発明です」太刀川英輔 |デザインストラテジスト/NOSIGNER 代表
4.「新しい常識のはじまりに立ち会っていることを教えてくれた」永田宙郷 | プランニングディレクター

最後に、AIの時代になってますます「美意識」が根底にないと立ち行かなくなっていると感じます。美とは何なのか。個々や人を超えた感覚への視座を与えてくれるオススメの書を挙げておきます。

山口周著『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか』
〈Apple〉からナチスドイツ、将棋士の羽生善治……美意識の有無の所業から学ぶ事が多い。
わかりやすく解説している記事はこちら(課題点が言及されていてよい)。

次回は、「生活の中に美しく道具をつくること」をテーマに書いてみます。

プロフィール

織咲誠

おりさき・まこと|インターデザインアーティスト/ダンボール社会学者。ダンボールを自由自在に加工する道具「or-ita(オリタ)」を作った開発者であり、「線の引き方次第で、世界が変わる」という“結びつきの関係”のリサーチと実践を行う。手掛けた商品の数々が世界で特許登録され、「自然力を取り込む知恵」「物質量やコストにたよらない」利を得るクリエイティブ『理り派』(ことわりは)を提唱する。2021年、アートの領域に軸足を戻し、「統合クリエイティブ」をテーマに活動中。近年は個展「hug-Box♡」をはじめ、アートとデザイン双方の根原にあるはずの共通や統合の美を求めて、ものごとの「間」を探る長旅を続けている。