ファッション

あなたにとってスタンダードって?/ティボ・デニス

What’s Standard?

2026年1月1日

マイスタンダードの見つけ方。


photo: Manabu Matsunaga
text: POPEYE Neo Iida
2025年10月 942号初出

スタンダードという言葉はあまりに広義だ。デザイナーにとってこの言葉は
どんな意味を持ち、自身のものづくりとスタイルに影響を与えているのだろう。

『インパーフェクションな美しさに惹かれる。』

〈ルイ・ヴィトン〉のデザイナーも務めるティボ・デニスは、自身のプロジェクトとしてデザインした「ビルケンシュトック1774」のミュールを履いて現れた。未来的なカーブを描いたデザインは一見ビルケンっぽくないけれど、素朴な質感は健在だ。

「今、最もスタンダードを感じるシューズはミュール。前から〈ビルケンシュトック〉のボストンにウールのソックスをあわせるのが好きなんだけど、僕のアイデアは寒い冬、厚手のコートを着込んだ足元にこのミュール。冬なのにミュールっていうのがいいんだよ。クライミングのカルチャーを混ぜた〝クライミング・ザ・シティ〟というイメージで作ったから、東京やパリ、LA、北京の街でぜひ履いてほしいな」

 淡いブラウンのスエードとコルクのグラデーション。ティボが作るシューズといえば、絶妙なカラーリングと素材選びが特徴的だ。その原点は?

「持って生まれた感覚もあると思うけど、母の故郷のブルゴーニュの影響もあるかもしれない。フランスの田舎町で、夏休みや冬休みに行くと広い葡萄畑が広がり、葉っぱ、土、空、あらゆる色に心が躍った。僕が育った都市のコンクリートの質感も好きだし、どちらの要素も大切だね」

 現代的なシューズを生み出すティボだけれど、大事にしているのは実際に目にして触れた体験だと気づかされる。

「スタンダードとは毎日を輝かせてくれるものだと思う。僕がインスピレーションを感じるのは、まずパリにある日本人の友人が営む『ドリーミンマン』のコーヒー。美味しいし、店のムードが大好きなんだ。そして朝起きて目に飛び込むキム・ミンジェの木の椅子。服も大事だよ。人生の瞬間を輝かせてくれるからね。特にシャツは定番で、ストライプやプレーン、いろんなものを持っていてレイヤードするのが好き。いずれも良い品質であることが欠かせないよ。あと陶器も大切。フランスの〈La Borne〉の’60年代の器はテクスチャが素晴らしい。陶器はインパーフェクションなところがいいね」

 気になったのが〝インパーフェクション〟という言葉。ティボは完璧じゃないものに惹かれるらしい。

「陶器は人間がデザインするものだけれど、火という自然の力によって質感や色が変わり、パーフェクトなものはできない。不完全さは僕にとって大切なんだ。なぜならそこに美しさがあると思うから。何かアイテムを見て『このオレンジ少し変かな?』と思っても、ダークブラウンやコーヒーカラーを加えたら好きになるかもしれない。不完全でも別の要素をミックスすればいいんだよ。それに、好きなものだけに囲まれていたら世界が狭まってしまう。僕は常にオープンマインドでありたいし、可能性に目を向けていたいんだ」


What words come to mind
when you hear “standard”?
スタンダードから連想することばは?

・コーヒー

・家具

・シャツ

・クオリティ

・陶器


プロフィール

ティボ・デニス

1986年、フランス・パリ生まれ。ヒップホップやロック、エレクトロなどの音楽を聴いて育ち、独学でデザインを学ぶ。19歳でイタリアに渡り経験を積み、2015年に〈ディオール〉に入社。2017年よりメンズフットウェアの責任者となり「B23」「Air Dior」などの名作を手掛けた。2024年に〈ルイ・ヴィトン〉へ参加。ソロ・プロジェクトとして〈ビルケンシュトック〉のハイコンセプトライン「1774」(P197でも紹介)のデザインも手掛ける。