ファッション

あなたにとってスタンダードって?/桑田悟史

What’s Standard?

2026年1月2日

マイスタンダードの見つけ方。


photo: Carolina Gheri
text: Neo Iida
2025年10月 942号初出

スタンダードという言葉はあまりに広義だ。デザイナーにとってこの言葉は
どんな意味を持ち、自身のものづくりとスタイルに影響を与えているのだろう。

『ルールを知った上で逸脱するのは楽しいです。』

 和洋折衷を掲げ、ミラノを拠点に「オリガミジャケット」なる立体的なスーツを仕立てる〈SETCHU〉のデザイナー、桑田悟史さん。その経歴はまるで映画だ。BEAMSで販売員として働いたのち、英語も話せないのに渡英。高級紳士服店が並ぶサヴィルロウで「働かせてください」と書いた手紙を持って店を回り、『H・ハンツマン&サンズ』に雇われた。サヴィルロウはキャリアが始まった場所であり、スタンダードを形作った場所でもある。

「僕の中でのサヴィルロウは振る舞いそのもの。シャツで店を出ると『それは下着だ』と怒られる。食事をする場でジャケットを脱いではいけない。そういうスタイリング的なエレメントというか、細やかなルールをたくさん教わりました。22歳から25歳までを過ごし、その頃覚えた文化がすっかり身に沁みています。これがわかっていないと、〝外した〟はずのスタイリングが〝外されてる〟状態になりかねない」

 ビスポークの素晴らしさも、サヴィルロウで身を以て体感した。

「お金はなかったんですけれど、当時のサヴィルロウはすごく人間味があって、〈ジョージ・クレバリー〉で相談したら『少しずつ払ってくれればいいから』って。20年たちましたがその革靴は今も僕の足にぴったりで、1日履いてもスニーカーより疲れない。ある日、『ハンツマン』にも10代の青年が恥ずかしそうに『ひいおじいちゃんが着ていたんですが直してくれますか?』と古いスーツをお持ちになったんです。ポケットには1920年と刺繍。直したら『ハンツマン』のスーツになりました。ひ孫だから骨格もぴったり。ビスポークは良質なスタンダードなんです」

 自身のスタイリングを考えるとき、外せないのはジュエリーだという。

「自分のポジショニングのためにも大事で、服によってボリュームを変えます。定番は英国伝統のシグネットリング。でも、わざと人がしないようなスタイリングをするのも好きで、太くてブリンブリンのチェーンを着けたりも。カニエ・ウェストの下で働いていた影響と思われがちですが、これもサヴィルロウの伝統。働く人たちは実はチャンキーなネックレスやブレスレットをしてるんですよ」

 旅先で薬代わりに飲むコーラや、嗅覚と記憶を結びつける香水、旅先で必ず行う釣り。様々なスタンダードがあるが、〝人と違う〟というユニークさもまた、桑田さんなりのスタンダードだ。経歴がそれを物語っている。

「僕は怠け者でレイジーで、だから最短を探そうとする。BEAMSに入るときも『イギリスに行く旅券が欲しいです』と言いましたし、履歴書の書き方すら知らずにサヴィルロウに向かった。人生は短い、後悔はしたくない。だから思い立ったら何でもしますね」


What words come to mind
when you hear “standard”?
スタンダードから連想することばは?

・コカ・コーラ

・シャネルのNO.5

・サヴィルロウ

・ビスポークの靴

・旅先での釣り


プロフィール

桑田悟史

くわた・さとし|1983年、京都府生まれ。高校卒業後、BEAMSで販売員として働き、21歳でロンドンへ。セントラル・セント・マーチンズで学びながら、名門高級紳士服店が並ぶサヴィルロウの『H・ハンツマン&サンズ』でテーラリングを経験。その後〈ジバンシィ〉やカニエ・ウェストのオフィスなどで働き、2020年にミラノで〈SETCHU〉を立ち上げる。2022年に「Who Is on Next?」で最優秀賞、2023年に「LVMHプライズ」を史上初の満場一致で受賞。