TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】教員にはならなかったけれど

執筆:上垣皓太朗(フジテレビアナウンサー)

2025年9月15日

現在『めざましテレビ』『めざましどようび』などで活躍中

フジテレビアナウンサーになって、1年半が過ぎた。

大学で国語と地理歴史の教員免許を取得したものの、教職には就かなかった私は、ペーパードライバーよろしく、ペーパーティーチャーのひとり。

とはいえ、教職課程のころの気持ちを忘れてはいけないと、ときどき思う。

国語は子どものころから好きだった。

あるとき、授業で金子みすゞ「わたしと小鳥とすずと」を読んだ。小鳥やすずにできてわたしにできないことがあり、わたしにできて小鳥やすずにできないことがある。

何回かの授業のあと、先生がこう問いかけた。

「タイトルの『わたしと小鳥とすずと』の最後の『と』は何でついていると思う?」
「なんで『わたしと小鳥とすず』じゃなかったんやと思う?」

クラスは疑問の渦に突き落とされた。「と」の意味?

私もうんうん頭をひねり、考えた。
「すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい」

そしてひらめいた。

この詩は、すずと小鳥とわたしの話だけをしているのではない。ほかにも、この世界にあるいろいろな物やことが「みんないい」。だからタイトルの後には、さまざまなものが連なることが暗示されているのでは?

手を挙げて、もちろんこんなふうに理路整然とは説明できなかったが、夢中になって自分の考えを話した。とにかくものの名前を挙げたのだ。

「わたしと、小鳥と、すずと、机と、筆箱と、消しゴムと、時計と・・・」

先生になんといわれたかはもう覚えていないが、それを発見できたことが、うれしかった。正解かどうかは、いまでもわからない。でも、あの瞬間は、「自分にとっての正解」を抱きしめていた。帰り道、友達と歩きながら、目に映るものをとにかく「と」のあとに続けて数えていた。

あのときの先生の問いかけは(教職用語では「発問」という)、私の中の考えることの喜びを呼び覚ましてくれた。ずっと忘れない原体験である。

たった一文字からさまざまな思いを読み取ることができる、日本語のおもしろさと難しさ。それを理解して、子どもたちが思いを正確に伝え合えるようにするのも、教員に期待される役割なのだろう。

教員にはならなかったけれど、アナウンサーとして、言葉と向き合っている。

競馬の新潟記念はことし別定戦になり、実力馬が集結した。「粒ぞろい」といおうか、「豪華な顔ぶれ」か。そんなふうに迷うのも、豊かな時間だと思っている。

虫捕りに夢中で走り回っていた5歳頃

競馬実況の練習中

プロフィール

上垣皓太朗

うえがき・こうたろう|フジテレビアナウンサー。2001年兵庫県出身。2024年にフジテレビに入社し、現在は「めざましテレビ」「めざましどようび」「かまいまち」などを担当するほか、競馬などの実況でも活躍。趣味は銭湯での長風呂、AMラジオ視聴。特技は地形図を見ながら街を歩くこと。

Official Website
https://www.fujitv.co.jp/ana/profile/k-uegaki.html