TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】かっこいい店

執筆:阿久津賢二(『Small Drug Store』店主)

2025年6月26日

98年、受験生だった僕はラメルジーのライブがあるからと誘われ、夜中に原付を飛ばして渋谷ハーレムに行った。ラメルジーのライブはなんだかすごかった。でも僕にとって、それ以上に衝撃だったのは、メインフロアで松田聖子のメガミックスをかけていたLatin Ras Kaz(以下、カズさん)のDJだった。その時、自分の価値観が見事にぶっ壊れ、自由になれた。

かっこいい大人とは店で知り合うものだ。
中学生の時から地元(東京都清瀬市)にあった『デラハウス』という古着屋に通い始めた。デラ親父(店主)は大体暇そうで、行くといつも難しそうな本を楽しそうに読んでいた。うずたかく積まれた服には値札がなく、値段は親父に聞いて確認するスタイルで、子供と大人で売値が違っていたのを僕は知ってる。元中学校教師だったデラ親父には本当にいろんなことを教わったし、OLD SCHOOL HIP HOPが好きな僕は、ここで沢山の服を手に入れた。
高校生になって地元から少し離れ、吉祥寺でよく遊ぶようになった僕は『Roundabout』と『METEOR』のふたつの店に行ったり来たりしていた。通い始めたころの『Roundabout』には、ラジカセが並び、PLAYBOYが置かれ、フレイヴァー・フレイヴの時計がショーウィンドウにあった。『METEOR』にはファミカセが色ごとに並び、上質なHIP HOPの中古レコードもあるとてもHIPなお店で、たくさんの人と出会えた。このふたつのショップが向かい合っていたあの建物は本当にカッコよかった。そして大学生のころ、その建物の裏にある『NEW YORK PIZZA TONY’S』でバイトをし始め、ピザやパスタをたらふく食べさせてもらったのだ。

20代の頃、自分は渡り鳥のようなもので、行きつけの店はそんな鳥たちの止まり木なんだと思っていた。店を持つ憧れはあっても、まだまだ飛びまわっていたかった。でも今は、そんな止まり木のひとつになれたらと思いながら店に立っている。
とにかく若い頃はHIP HOPの匂いを嗅ぎ分けながら街を歩いていた。そんな僕にとって忘れられない店が渋谷の『BREAK BEATS』だ。しかも初めて入った時にレジに座っていたのが、カズさんだったのだ。あの日受けた衝撃を伝えるために何とかしゃべりかけた。憧れの人が街にいる、HIP HOPならではの距離感。やはり大事なことはHIP HOPから学んでいる、ストリートから。

プロフィール

阿久津賢二 a.k.a. smallest

あくつ・けんじ|ラッパー / DJ / 登録販売者。1980年東京生まれ。「あくつ薬局」3代目。HIP HOPグループ「トリカブト」で2001年デビュー。トリカブト活動休止後「Dig Dynamics Hip Hop doo-dah Band」を結成。それと並行して チップチューンバンド「SUPERSTARS」を結成。2012年『サイタマノラッパー3 ロードサイドの逃亡者』にNO SIGHT役で出演。俳句集団「傍点」同人。 2025年3月、学芸大学駅前に薬とカルチャーの店『Small Drug Store』を開店。落語好き。

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