TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】太陽の塔

執筆:鈴木ジェロニモ

2025年6月14日

「11時30分の回なら可能ですがどうなさいますか?」。受付の方に言われる。おおなんだそれなら全然いいじゃないですか、と思う。それでお願いします。受付の方にそう伝えて11時30分の回のチケットを購入する。太陽の塔。入館券。塔の中に入って内部を見学できるチケット。現在10時10分。入館までは1時間以上ある。その時間でできることを考えて、そのうちのひとつ、太陽の塔を外からゆっくり見る、を行うことにする。

 芸人仲間に「太陽の塔はぜひ観に行ったほうがいい」と薦められていた。その会話をした月末にちょうど大阪でトークイベントをする予定があったのでそれに合わせて観に行くことにした。向かう電車の中で太陽の塔について調べていると、公式ホームページにでかでかと「事前予約制*前日までに要予約」と書いてある。えっ、今から行くんだけど。焦る自分と諦める自分の興奮と冷静を利用して口コミを調べる。どうやら人数に余裕があれば当日券でも入れる、とのこと。まあ今日平日だし大丈夫だよな。意識の上では立ち上がっていた自分を実際と同じように電車の座席に座らせて、落ち着いた気持ちで太陽の塔、万博記念公園駅へ運ばれる。

  駅から舗装されたルートを少し歩くと視界の左に太陽の塔が見えてくる。そこからもう、凄さが来る。顔がこっち向いてるようで向いてない。曇り空に突き刺さっているようで、ぶら下がっているようにも見える。ヒーローなのか悪役なのか分からない。けれど吸い寄せられる異様さがあって視線の方向に転ぶように足が進む。

太陽の塔

 チケット購入を経て入り口をくぐると目の前に太陽の塔がある。あるというか、いる。ぉぉぉぉぉぉ、とながい独り言を発し続けているように見える。まだ言い終わっていない独り言の途中に来てしまった。それは上映中の映画館に途中で入場したような、スイマセンと体を小さくしたくなる気持ちに近い。けれどいい意味でこっちを気にしていない気配を確信する。勝手に来たらいいし勝手に帰ったらいい。ぉぉぉぉぉぉ。森を束ねたようなおおらかさを感じ始めて、既に始まっている迫力に従って同じポーズをしたくなる。

ぉぉぉぉぉぉ

 わかる。なんか、わかる、と思う。それは、やるぞって気持ちだしもういいよって気持ちだった。

プロフィール

鈴木ジェロニモ

すずき・じぇろにも|1994年、栃木県生まれ。お笑い芸人。歌人。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024準決勝進出。TBS『ラヴィット!』「第2回耳心地いい-1GP」準優勝。短歌では、第4回・第5回笹井宏之賞最終選考、第65回短歌研究新人賞最終選考、第1回粘菌歌会賞を受賞。『ダ・ヴィンチ』『小説 野性時代』『ユリイカ』『文學界』など様々な媒体に作品やエッセイを掲載。’22年からは短歌のライブイベント「ジェロニモ短歌賞」を主催するほか、昨年末には『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行した。

Official Website
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