ライフスタイル

世間話のコツ。

大人へのファーストステップ。

2025年9月5日

大人になるって、わるくない。


illustration: Minoru Tanibata, Makoto Wada (profile)
text: Neo Iida
2025年6月 938号初出

なんてことない話をするのってムズカシイけど、大人って感じがする。
放送作家としてプロのトークを間近に見てきた藤井青銅さんに、世間話の嗜み方を聞いてみた。

 どうやら普通の人ほど、オチを作らなきゃいけないと思っているようなんです。バラエティ番組の影響だと思うんですが、日常会話にはフリもオチもなくていい。そんなことを意識していたらギスギスしちゃう。それよりちゃんと話を終わらせるほうが大事。何があってどうなった。どう思った。これをしっかり伝えられたら、オチはなくてもいいんですよ。特に世間話は完成品を届ける必要はなくて、話しながら「ごめん、ちょっと言い直すね」ってもう一度始めれば大丈夫。

 コツを挙げるなら「“ニン”を意識する」ことですかね。ニンとは、昔から歌舞伎や落語などの芸能の世界で使われてきた言葉。「人」とも「仁」とも書くようですが、その人物を包括的に表していて、キャラクターとも言い換えられます。自分のニンを意識しながら話すと、話に説得力が出ますよ。そして「線引きをする」。家族構成や年収など、パーソナルなことには土足で立ち入らない。核心をつかず、ふわっとしたままでも会話は成立します。あとは「気持ちをのせる」。先日も『オードリーのオールナイトニッポン』で、若林(正恭)さんが駐車場でお金を入れたのにフラップ板が下がらなかった話をしていましたが、ささいな出来事でも感情をのせていくとトークになる。話しながら意識してみると面白いですよ。

 学生時代と違って、社会に出るといろんな年齢や立場の人がいますよね。そういうとき「自分はこう思う。あなたは違ってもいいよ」と、お互いを尊重しながら会話を成立させられるのが大人じゃないかなと思います。職場のだいぶ年上の先輩の自慢話なんて「自分に関係ないかな」と思いがちですけど、いったん最後まで聞いてみる。忘れたっていいし、経験談からは何かしら拾えることがある。関係がないことってないんですよ、きっと。

喜怒哀楽を届ける

 無理がない話にはちゃんと感情がのっています。腹が立ったことがあれば「腹が立った」という気持ちをのせて話せばいいんです。そうすると相手も共感しやすいし、話も盛り上がる。あくまで自分の気持ちの話だから無理がないし、相手にも失礼がない。気をつけないといけないのは変に盛りすぎないことですね。テレビやラジオのトークであれば多少の味付けは必要ですが、世間話ですから、事実と自分の気持ちをシンプルに伝えれば大丈夫。そのときどう感じて、感情がどう動いたかを話すだけで、十分面白い世間話になると思います。

フリもオチもいらない

 フリがあってオチがあって最後が爆笑で……なんて考えなくて大丈夫。話がちゃんと終わればいいわけで、こういうことがあってこうなったんですよと筋が通っていればいいんです。たどたどしくてもいいし、詰まってもいい。途中で「えっと、なんだっけな」「スマホで調べてみよう」も全然あり。それも含めて会話なんですから、やり取りが楽しければいいんです。ラジオの場合、MCは日々面白い話を探していますが、「話すことがない」という場合はそのまま話して盛り上がることも。リアルな話を最後まですることが大切です。

“ニン”を意識する

 その人が持つ“ニン”に合わない話をしていると、薄っぺらく聞こえたり、説得力が感じられなかったりするもの。“ニン”に合った話し方や内容を選ぶと、会話もスムーズに進むと思います。言い換えると「パブリックイメージとセルフイメージの違いを意識する」でしょうか。年齢、職業、外見などを自己分析して、どんなふうに話すと無理がなくて自然かを考えてみる。あえて“ニン”と違う話をしてギャップを作るテクニックもありますが、世間話には必要ないですね。話しながらでも、“ニン”を意識してみるといいと思いますよ。

線引きをして入り込まない

 相手に興味を持って質問を投げることは大事ですが、あんまり聞きすぎてはいけません。話しながら「どこ出身だろう?」「家族構成は?」と気になっても、プライベートには立ち入らない。よくテレビで「最高月収は?」「家賃いくらの部屋に住んでるの?」と聞いているけど、あれも良くないですよね。もちろん人のお金のことはみんな興味あるし、相手が自分から言うならいいけれど、聞かずにその手前でお話をするのが大人の嗜み。世間話なら核心に切り込む必要はないですし、論破なんてしなくていいんです。品よく切り上げましょう。

プロフィール

世間話のコツ。

藤井青銅

作家、脚本家、放送作家

ふじい・せいどう|第1回「星新一ショートショートコンテスト」入選。伊集院光やオードリーのラジオ番組構成に携わる。近著に『トークの教室:「面白いトーク」はどのように生まれるのか』(河出書房新社)。