ライフスタイル
家の猫の話 Vol.10/文・ピエール瀧
2024年12月5日
嫁の活躍によってようやく家に帰ってきたアズキでしたが、オイラが仕事から帰宅すると家の中はただならぬ雰囲気に満ちていました。
安心エリアであるはずの我が家なのに、何かに怯え、物陰や買い換えたばかりのソファーの下に籠りっぱなしのアズキ。一向に姿を現そうとしないので気になって覗いてみると、薄暗いソファーの奥で目を爛々と光らせ、用意したご飯の皿にもまったく手をつけようとしません。
心配した兄猫のコンブが近づいていっても、グニャルルルルゥ~という聞いたこともない唸り声をあげて威嚇し、さらに鋭い爪でコンブの顔面を何発も引っ掻いて追っ払ってしまいます。その仕打ちにはさすがのコンブもお手上げで、早々にダイニングテーブルの椅子の座面に避難し、アズキがいるソファー方面からひと時も目を離すことができずにビビり倒すといった態度になってしまったのです。恐怖でしっぽを膨らませながら。「あれはアズキじゃない」当時小1の娘も思わずつぶやきました。確かに。
アズキには悪魔が取り憑いてしまったのではないか!?
こう考えるのが自然なほどのアズキの変貌ぶり。マナーは消え失せ、ところ構わずウンチやおしっこをしてしまい、朝オイラたちが目覚めると、あちこちから阿鼻叫喚の異臭が漂っているという地獄のようなリビングの状態になってしまったのです。
そんな日が数日間続き、我が家の人間3人とコンブはへとへとになってしまいました。それでも「あのアズキがこんなになってしまった。かわいそうだからなんとかしてあげなければ」という共通認識は固く、「まずは落ち着くまでケージの中に入れて様子を見ることが先決なのではないか」という意見に固まりました。その方がコンブも安全だし、見たこともない色のウンチの処理も1箇所で済むのです。
ペットショップで買ってきたケージ(要するにデカい檻)の中に普段はあまり与えない魅惑的な猫缶を設置し、悪魔と化したアズキをなんとか誘い出し、一瞬の隙をついて閉じ込めることに成功。しかし、ケージの中で数日過ぎてもアズキの態度はまったく変わらず、こちらを睨みつけては「耳食いちぎったろか!」的な叫び声をぶつけてきます。エクソシストかっつーの。さらに、置いてあるエサや水の皿、下痢便まみれのトイレも全てひっくり返してメチャクチャにし、カオスの権化の名を欲しいままにしているのです。
これはさすがにヤバい。もう手に負えない。一度お医者(もしくは悪魔祓い)に見てもらうしかない!
そう決心したオイラと嫁は、国際A級指名手配のアジトを制圧するくらいの気構えで完全防備を施し、医者に連れて行くために恐る恐るケージの扉を開け放ちました。
ガシャーン!ズダダダダッ!とケージから勢いよく飛び出したアズキは、リビング中を駆け回りながら全ての物を薙ぎ倒しまくった後、高い位置にある窓の上部分に飛び乗ってしまいました。これでは手が届かず、捕獲は不可能です。仕方なくモップの柄を使って降りてくるように促そうと、モップを構えて下からアズキを再び注視した瞬間、予想もしなかったモノがオイラの目に飛び込んできました。
キ、キ…キンタマ!?
オイラと嫁の目線1.5m先のアズキの股間に、メス猫にあるはずのないキンタマが確かにあったのです。どういうこと!?
顔を見合わせたオイラと嫁は全てを察し、黙って静かにその場を離れ、外世界に続いているベランダの窓を開け放ちました。
そしてここ数日間アズキだと信じていた知らん猫を申し訳ない気分で静かにモップで追いやり、なんとかベランダの方に導きました。
リビングからベランダにピョンと飛び出した黒猫はそこで一瞬立ち止まると、静かにこちらを振り返り、怒りに満ちた表情で「なっ‼言ったじゃん!」と言って(オイラには確かにそう聞こえた)、ベランダをひらりと飛び越えてどこかに消えていきました。本当にマジごめん。おっしゃる通りです。マジすんませんでした。そして娘よ、キミが正解だった。
こうして我が家の猫騒動は終焉を迎えました。この事件の後、妙に寂しげになってしまったコンブを慰めるためにブイヨンを迎えることになったのです。
プロフィール
ピエール瀧
ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(大根仁・監/Netflix)、『HEART ATTACK』(FODで配信予定)にも出演予定。
電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/
関連記事

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.9/文・ピエール瀧
2024年11月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.8/文・ピエール瀧
2024年10月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.7/文・ピエール瀧
2024年9月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.6/文・ピエール瀧
2024年8月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.5/文・ピエール瀧
2024年7月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.4/文・ピエール瀧
2024年6月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.3/文・ピエール瀧
2024年5月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.2/文・ピエール瀧
2024年4月5日

ライフスタイル
家の猫の話 Vol.1/文・ピエール瀧
執筆: ピエール瀧
2024年3月5日

ライフスタイル
【#4】続・家の猫の話。
執筆: ピエール瀧
2023年9月1日

ライフスタイル
【#3】続・家の猫の話。
執筆: ピエール瀧
2023年8月25日

ライフスタイル
【#2】続・家の猫の話。
執筆: ピエール瀧
2023年8月18日

ライフスタイル
【#1】続・家の猫の話。
執筆: ピエール瀧
2023年8月11日

ライフスタイル
【#4】家の猫の話。
2021年3月29日

ライフスタイル
【#3】家の猫の話。
2021年3月22日

ライフスタイル
【#2】 家の猫の話。
2021年3月15日

ライフスタイル
【#1】 家の猫の話。
我が家の猫、3匹について。
2021年3月9日
ピックアップ

PROMOTION
足取りを軽くさせるのは、春の風と〈クラークス〉の『ポールデンモック』。
2025年3月3日

PROMOTION
謎多き〈NONFICTION〉の物語。
2025年3月28日

PROMOTION
この春、欲しいもの、したいこと。
Rakuten Mobile
2025年3月7日

PROMOTION
“チェキ”instax mini Evo™と僕らの週末。
FUJIFILM
2025年3月4日

PROMOTION
Gramicci Spring & Summer ’25 collection
GRAMICCI
2025年3月11日

PROMOTION
春から連れ添う〈イル ビゾンテ〉。
IL BISONTE
2025年3月3日

PROMOTION
僕とアイツの無印良品物語。
2025年3月11日

PROMOTION
いいじゃん、〈ジェームス・グロース〉のロンジャン。
2025年2月18日

PROMOTION
〈バウルズ〉というブランドを知りたい。
vowels
2025年3月15日

PROMOTION
〈Yen Town Market 〉がFCバルセロナの新コレクションを展開! 街というフィールドを縦横無尽に駆け抜けよう。
2025年3月21日

PROMOTION
〈adidas Originals〉とミュージシャンの肖像。
ASOUND
2025年3月19日

PROMOTION
“濡れない、蒸れない”〈コロンビア〉の新作スニーカーで春夏のゲリラ豪雨を乗り切る。
2025年3月7日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/介護福祉士・永田麻耶さん
2025年3月24日

PROMOTION
フレンチシックでカルチャー香る〈アニエスベー〉で街へ。
agnès b.
2025年3月11日

PROMOTION
L.L.Beanの春の装い。
L.L.Bean
2025年3月7日

PROMOTION
屋外でもアイロン、キャンプでも映画。
N-VAN e: を相棒に、オンもオフも充実!
2025年3月7日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/訪問介護ヘルパー・五十嵐崚真さん
2025年3月24日

PROMOTION
堀米雄斗が語る、レッドブルとの未来予想図。
Red Bull
2025年3月17日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/社会福祉士・高橋由茄さん
2025年3月24日

PROMOTION
きみも福祉の仕事をしてみない?/保育士・佐々木紀香さん
2025年3月24日

PROMOTION
夏待つ準備を。
Panasonic
2025年3月11日

PROMOTION
〈OLD JOE〉がソール・スタインバーグとコラボレーションするんだって。
OLD JOE × SAUL STEINBERG
2025年3月7日