カルチャー
18世紀から今のハイブランドまで揃うボタンの宝庫『谷中レッドハウスボタンギャラリー』。
東京博物館散策 vol.3
photo: Koh Akazawa
text: Fuya Uto
edit: Toromatsu
2024年12月22日
公立ミュージアムに、私設ミュージアム、記念館に資料館、収蔵品を持つギャラリーなどを巡ってゆくこの企画。様々な文化が掘り起こされる今だけど、歩いて得た情報に勝るものはない。だからこそこの記事を読んだ人もぜひあなたの「東京博物館散策」へ。
夏目漱石や森鴎外など、かつての文化人らが多く住んだ千駄木。中でも江戸時代からの寺町で下町情緒が残る「谷中」は、今や観光地としても大賑わい。そんなメイン通りを横目に住宅街の奥へ入っていくと、日本はもちろん、アメリカやヨーロッパなど世界中の人々が目がけてやって来るマニアックなギャラリーがある。彼らのお目当ては、アンティークボタンだ。
ボタンの起源はなんと紀元前4000年まで遡るというが、『谷中レッドハウスボタンギャラリー』に展示販売されているのは、18世紀〜19世紀のヨーロッパ製が中心。「自分の好みを表す」貴族の装飾品だったボタンが、政治や産業革命の影響により、一般家庭まで広く普及した頃のものだ。シェルボタンを筆頭に、ベジタブルアイボリー、ラクトボタン、インタリオボタン、セルロイドボタン、メタルボタン、昆虫や植物を閉じ込めた標本仕立てのハビタットボタンなどなど、希少な一点モノがずらりと並ぶ。
「それぞれの素材、技法、デザインを見ていくと、ボタンは産業とともに発展していったことがわかりますよね。今だにキリがないほど奥深い世界なんです」と教えてくれたのは館長のドリーヴス・公美さん。たしかに、素人目でも18世紀のものは自然素材が多く、シェルボタンの絵柄も針で墨を入れていたりと優雅な雰囲気が。一方で世紀をまたげばベークライトが流行り、デザインもアール・デコの影響を受けていることが感じ取れる。
そんな奥深き世界に魅せられたドリーヴスさんは、2012年にこの店をオープン。開店前も含めると30年以上ひたすらにボタンの造詣を深めている。実は父がボタン職人で、幼少期からとても身近な存在だったそう。しかも、1979年から最近まで稼働していたその町工場は、数々のトップメゾンブランドに提供していた知る人ぞ知る存在。ボタンを生業にする人々からすれば恵まれた環境ではあるけれど、18世紀から今のハイブランドまで、いち個人が幅広く追求しているのは極めて少ないケースだろう。
「ご年配の方に限らず、古着が好きな若い方や作家さんなどジャンルレスに来てくれますね。その多くは欠けたボタンの代替え品を探しに来られますが、当時はTPOにあわせてボタンを付け替えることが嗜みでしたので、それに倣ってすべて取り替えてみるのも洋服自体の表情が変わって面白いですよ。フォルム、装飾、サイズ、年代が本当にさまざまあるから、実際に洋服を持参して充ててみるのがオススメです。」
この小さなアイテムには時代の色や職人の技術がギュッと閉じ込められている。だからこそ、道具としての機能を飛び越えた魅力があるのだ。その素晴らしさを丁寧に伝えるため、観光地で集客が見込めるなかでも1組ずつの予約制で対応。ルーペを片手に、知れば知るほど果てしない魅惑の道がそこにあった。
インフォメーション
Yanaka Red House Button Gallery
18世紀〜19世紀のヨーロッパで生まれたアンティークボタンを数千種類所有するボタン専門のギャラリー。前述した他にも、日本の原風景や着物姿の女性が描かれた薩摩ボタンをはじめ、漆工芸の代表的な装飾技法である蒔絵が施されたオリジナルの芝山ボタンといった、超マニアックなボタンが揃い踏む。数百円で買えるものもあるから、気軽に行ってみよう!
◯東京都台東区谷中3丁目1−15 ☎︎080・4160・5444 11:30〜17:00 日・月・火休 ※要予約
Official Website
https://www.yanaka-redhouse.jp/
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