フード

チリ料理店『Casa de Eduardo』/異国の店主と土地の味。Vol.35

インタビュー・土井光

2024年11月12日

異国の店主と土地の味


interview: Hikaru Doi
photo: Kazuharu Igarashi
text: Shoko Yoshida

各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。

『Casa de Eduardo』店主のエドゥアルド・フェラダさん。

土井光(以下、土井) ここは都内で唯一のチリ料理店ということですが、お店はいつオープンされたのですか?

エドゥアルド・フェラダ(以下、エド) 2012年です。最初は、赤坂のサンドイッチ屋さんを間借りしていたのですが、1年ほど経ってから新中野にお店を構えました。

『Casa de Eduardo』は、赤提灯を掲げた居酒屋が並ぶ、新中野の路地にある。エドさんのイラストが描かれた大きな看板が目印。

土井 来日されたのも、その頃ですか?

エド 来日したのは1983年。もう40年以上も前! 当時、大学を卒業してチリで働いていたのですが、ある時新聞を見ていたら、日本の電子通信事業会社の求人を見つけて。日本のことは、アニメの『ウルトラマン』や、ドラマの『おしん』くらいしか知らなかった。でも、27歳だった僕は冒険心と挑戦心が強かったので、すぐに応募して試験を受けました。高い倍率をくぐり抜けて採用が決まり、翻訳スタッフとして東京で働けることになったんです。

土井 一つの決断が、40年以上も異国に暮らし続ける未来を作るなんて、人生はどう進んでいくかわからないものですね。

店内には、チリの地図が描かれた壁掛けが。「南北に長細いので地域によって気候は異なるけれど、言語の違いはほとんどないです」とエドさん。

エド ほんとですね。周りの友人は、私の決断を冗談だと思っていましたし(笑)。でも、日本は街並みが綺麗で、人も優しくて、すっかり気に入りました。電子通信事業会社は1年ほどで辞めてしまったのですが、日本にはいたかったので、別の仕事を見つけて生計を立てました。

土井 具体的にどんなお仕事をされていたんですか?

エド JICAに勤めて、海外に派遣される協力隊にスペイン語を教えながら、副業で翻訳もしていました。勤務先は長野県だったのですが、チリにいた彼女を日本に呼んで、結婚をして子供も生まれて、プライベートも充実していましたね。その後、だんだんと翻訳の仕事が忙しくなったので、2年ほどでJICAは退職し、翻訳会社を自分で設立して東京に戻りました。

土井 エドさんは、長いこと翻訳業を生業にされていたのですね。

エド でもね、インターネットの普及によって2000年以降はどんどん仕事が少なくなっていき、しばらく不安な時期が続きました。この先どうしようと思っていた時、レストランを開くきっかけとなる東日本大震災が起きたんです。チリテレビ局のリポーターを案内するために、震災から2日後に被災地に行ったのですが、その後もボランティアとして南三陸に定期的に足を運んで。その時、炊き出しで作っていたアサードなどのチリ料理を喜んでもらえたことで、飲食の道を決めました。震災は2011年3月11日、お店オープンはほぼ一年後の2012年3月12日。

牛肩ロースを炭火で焼いたアサード(BBQ料理の意)。現地では、ライスやマッシュポテトと合わせて食べることが日常的。エドさんいわく、チリ人はチキン、ポーク、ビーフと様々な肉を食べるが、値段が高い牛肉は、休日にファミリーが集まった時などに焼くことが多いのだそう。200g¥2,200

お店はエドさん一人で切り盛り。アサードは、テラスにあるグリルで焼いてくれる。

土井 エドさんのこれまでのストーリーから、勇気と柔軟さをもって自分の人生を切り開いてきたことが伝わってきます。お店を実際に始めてからは、何か苦労されたことなどはありますか?

エド チリ料理は、名前の響きだけで辛いイメージを持たれがちということですね。むしろ、スパイスも控えめでとても優しい味なんですよ。

サクサクの生地で牛ひき肉をたっぷり包んだエンパナーダ。ジューシーな甘さがあり、そのまま食べても美味しいが、残り半分ほどで塩味が効いたサルサをつけて食べるのがエドさんのおすすめ。¥660

チリの伝統的な家庭料理であるパステル・デ・チョクロ(コーンパイの意)。コーンペーストに、牛肉や鶏肉、ゆで卵にオリーブを混ぜ合わせてオーブンで焼いたもので、具沢山なグラタンのよう。奥の黄色い炭酸ジュースは、ペルーで作られるインカ・コーラ。コーンパイ中¥1,650、インカ・コーラ¥440

気候と地形のよさから、美味しいワインを大量生産できるチリ。『Casa de Eduardo』にも、もちろんチリ産ワインは揃っており、グラスで¥550〜、ボトルで¥3300〜とリーズナブル。

土井 私はペルーとエクアドルに行ったことがありますが、辛味のないシンプルな味付けで作る南米の食事は、全体的に日本人に合う気がします。しっかり焼かれたお肉は、食べるとエネルギーが湧いてきますね!

エド そういってもらえて嬉しいなあ。僕は、元気なうちにチリに戻って老後は故郷で暮らしたいですが、75歳までは日本でお店を頑張りたいと思っています。今は68歳。まだまだ張り切っていきますよ!

土井さんからのコメント。「東京ではなかなかない、チリ料理。どんなお店かとワクワクドキドキで向かいました。入った瞬間、素敵な笑顔のエドアルドさんと、華やかなチリの国旗が出迎えてくれます。『カサ・ド・エドゥアルド』という名前がしっくりくる、エドゥアルドさんのお家に来たようなお店です。とても美味しいエンパナーダ に、辛くないサルサソースが日本人の味覚にも合う優しい味。シンプルな味付けが、南米の温かい雰囲気を思い出させます。インタビューでは、3.11のボランティアのお話を沢山聞くことができ、外国人であるエドゥアルドさんが、日本人以上に弱っている地域や人々のことを考え、行動している姿に惚れ惚れしました。ぜひお店に行ってエドゥアルドさんの活動のお写真を拝見してください。優しさに溢れるエドゥアルドさんのレストランは、アットホームな雰囲気と明るい南米の雰囲気で楽しませてくれる最高の穴場スポットです!」

インフォメーション

チリ料理店『Casa de Eduardo』/異国の店主と土地の味。Vol.35

Casa de Eduardo

◯東京都中野区中央4-1-8 富士シャトー1F ☎︎090・6508・4649 7:00〜24:00 無休

今回取材した店主の故郷について

チリ料理店『Casa de Eduardo』/異国の店主と土地の味。Vol.35

チリ共和国

◯細長いので狭く見えるが、面積は日本の2倍!
◯南北に細長い理由は、5000m級のアンデス山脈が南北に横たわっているため。
◯赤道に近い北部には砂漠、エドさんの出身地である首都サンティアゴがある中央部には果樹園や農牧地帯、南部には氷河フィヨルドと温帯雨林が広がる「パタゴニア」があり、地域によって環境は様々。
◯モアイ像で有名なパラ・ヌイ島(通称、イースター島)も、チリの領土。
◯スペイン語が公用語。スペイン語でおいしいは「Está rico(エスタ リコ)」


チリ料理店『Casa de Eduardo』/異国の店主と土地の味。Vol.35

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