TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】私と車の話 PORSCHE 914とSUZUKI ALTO

執筆:ピーター・アイビー

2024年9月3日

 BMW2002、ランクル40と乗り継いできましたが、縁があってポルシェ914を所有することになりました。今では家の床に中古で譲ってもらったリフトを埋め込み、整備工場のようになった我が家には、近所の自動車整備の知り合いが道具を借りにくることもあります。

 春と秋の気持ちのいい季節になると、私は休日の朝4時頃に起き、4時間コースのドライブへ出ます。スピードを出したいときは鈴鹿サーキットまで出かけることもありますが、普段のドライブでは速く走ることよりも山道のカーブやコーナーを楽しんだり、美しい景色を眺めることが目的です。山の崖のカーブには、急斜面に沿って、コンクリートの屋根とそれを支えるコンクリートの柱が等間隔に並ぶトンネルがあります。柱の影と、柱の間に差し込む朝焼けの光が交互にちらつくこのカーブは、車の速さとリズムを体感できるので私のお気に入りです。

 そんなある土曜日の朝、いつものようにほぼ一本道の山へ入りしばらく走ると、白いスズキ アルトの姿が見えました。はじめは追い越そうと思っていましたが、突然、アルトはコーナーでブレーキを全く使わずに曲がったのです。スピードを出したまま曲がったので、アルトの後輪が1本地上から浮いているのが見えました。

 その後もカーブに入ると、脇道の雑草に触れるほどに道幅を端から端まで使い、運転に全く無駄がない。アルトは重量が600kgで軽いため小回りが効きますが、何といってもドライバーの技術がとても上手で、山道を走り慣れています。しかも、このアルトは改造もしていない様子でタイヤも細く、さらには3速のオートマ車です。私のポルシェ914はというと、重量はあるけれどアルトの4倍も馬力があり、改造もしています。ですが、私は彼のペースに追いつくことがギリギリでした。

 私はアルトに心からの拍手をしました。

 翌週の土曜日、同じ時間で同じ場所で、のんびりと走る白いアルトの姿が。彼は後ろからやってきた私の914を見つけると、次のコーナーで突然スピードを出して、また後輪を浮かせました。アルトはブレーキを踏まない。踏むときはコーナーで車を回すときだけです。しばらく一緒に山道を走り、先の別れ道で、彼はさらに細かい道のある左へ、そして私は右へ。

 私は窓から手を挙げ、彼にサヨナラをしました。

 この場を借りて、Dear,アルト様、すごく楽しかったです。また一緒にお願いしたい。お金や設備をかけなくても、やりたい人はできるのです。

プロフィール

ピーター・アイビー

ピーター・アイビー|ガラス作家。1969年、アメリカ・テキサス州生まれ。ロードアイランドスクールオブデザイン卒業後、独立。作品を制作しながら、大学で臨時教諭として働き、吹きガラスの仕事があればどこへでも手伝いに行った。2002年に来日し、2007年に富山県に移住。現在は住まいの隣に構えた工房「流動研究所」で作品制作を行う。

Official Website
https://www.peterivy.com/ja/