カルチャー

驚きに満ちた「手触り」を探求しに『ハチマクラ』へ。

東京五十音散策 高円寺①

2024年8月11日

photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Toromatsu

東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「こ」は高円寺へ。

 高円寺駅南口を出て、5分ほど歩く。商店街や飲食店、活気ある街の景色を抜け路地を入った住宅地へ。ここに、「紙モノ」を専門に扱う『ハチマクラ』がある。

 決して広くはない店内に、溢れんばかりの紙類。ヨーロッパのアンティーク品や、アメリカの古い日用品、日本の明治〜戦前の紙、古い包装紙、切手、古い絵ハガキ、封筒、便せん、ノートなどなど。目移りしてしまうほどデザインが可愛いもの、味わい深いものが多く広がる。取材日にも、店内を静かに物色するマニアなお客さんの姿がチラホラ見えた。現行品では味わえない「紙モノ」の魅力求めて遠方から訪れる人もいるんだとか。そもそも、「紙モノ」とは何なんのか、店主の小倉さんにお話を伺った。

「『紙モノ』とは元々、古本屋さんなどで使われていた言い方で、仕分けの際に学術的に価値のない紙全般を総称してそう呼んでいたようです。古い紙モノの魅力は、今にはない手触りなどの「素材」ですかね。効率を追い求めた代償として失っていった技術、印刷紙、デザインがたくさんあります。今見るからこそ斬新なデザインや優れた技術をこれ以上埋もれされてしまわないよう、次の世代へと橋渡しができると嬉しいです」

 元々はデザイナーとして活動していた店主の小倉さん。最初はデザイン事務所として面白そうという理由で店舗付きの物件を借り、当初は自身のコレクションを少しずつ販売し始めたことがお店を開くきっかけとなった。2008年に高円寺にオープンし、10年ほど前から現在の場所に移り営業する。

「お店を始める前は雑誌等でデザインの仕事をしていました。誌面で使われる「紙」、背景デザインに用いることができる「紙」の素材に注目するうちに、紙モノを自分で集めはじめたことがきっかけです。収集癖は昔からあって、私自身もコレクターなんですよね。昔はそれこそ古本屋さんの隅っこに安く無造作に置いてあって、そこから掘り出すのが面白かったのですが、今では絶対数が減ってしまって貴重な存在になってきました」

 小倉さん自身がコレクターだからなのか、取材中も店内の紙モノに対する愛情を感じた。

「買っていってほしいけど、いざ売れるとちょっと寂しい気持ちもあります。せっかく探してきたのに〜、と(笑)アンティーク品には限りがあるからこそ、その魅力を発見したり、興味があったりする人の元に届くと嬉しいです」

 最近では、オリジナルグッズとして「封緘紙」「ラベルシール」、石版印刷術(クロモリトグラフ)を用いた「クロモスシール」など、かつて存在していたが廃盤になってしまった製品を、当時を知る職人さんと協働で復刻させた、復刻グッズを販売している。

「現代のものもカッコいいんですけど、古物には胸をズキュンと撃ち抜かれるような「びっくり感」があってなぜか好きなってしまうんですよね。デザインの表面だけはインターネット上で面白いものをたくさん見られますが、手触りはやっぱり手にしないとわかりませんよね。できる限り素材の面白さが伝わる技術を残していきたいという気持ちがあります」

 お店というよりもここはまるで小さな博物館。かつて、”当たり前”に存在していたモノたちとの驚きの出会いがここにある。

和紙でできた明治期の質屋紙。質屋さんで余った伝票をくっつけて風呂敷にしたもの。迫力があるしファッショナブル。

ヨーロッパ中心に薬袋、切符、カードなど小物系。人気のコーナー。

フランス製、エイプリルフールの日用のポストカード。ゴージャス。

戦前ごろとみられる砂糖袋。実際に使用されていたものも味わい深い。

こちらが復刻グッズ『Bébés』。エンボス加工が施されたクロモスシール。赤ちゃんの顔が可愛すぎる!

インフォメーション

驚きに満ちた「手触り」を探求しに『ハチマクラ』へ。

ハチマクラ

小倉さんが特に好きなのは「無地の紙」。現在のものとは材質がまるで違うので、銅版画などの作品制作のために購入する作家さんもいるんだとか。京都と東京で開催される『紙博』など、イベントにも出展予定。

○東京都杉並区高円寺南3-59-4 13:00〜19:00 月・火休(イベントに合わせて変更になる場合があるため、詳細は公式サイトをチェック。)

Official Website
https://hachimakura.com/index.php