ファッション

ビームス新井伸吾さん初の著書『PLAY THE NEW CLASSIC』発売!

愛すべきニュークラシックたち。

2024年7月31日

photo: Kazuharu Igarashi
text: Neo Iida

 ビームスから刊行されている、スタッフのパーソナルブック・シリーズ「I AM BEAMS」。その第7弾として、メンズカジュアルのバイヤーであり、テニスブランド〈Setinn〉を手掛ける新井伸吾さんの著書『PLAY THE NEW CLASSIC』が8月1日に発売される。テニスとファッションと人間関係が交錯する、新井さんの魅力がたっぷり詰まった一冊だ。初の著書を刊行した新井さんに、編集後記がわりのインタビューを行った。

8月1日発売の『PLAY THE NEW CLASSIC』(著:新井伸吾 1,760円/世界文化社)。

有明のテニスコートに、デスクを持ち込んだ。

ーー「I AM BEAMS」、ついに新井さんの番がやってきましたね。

いや、最初は断ってたんです。でも本を出版できるチャンスもそうないし、自分が〈Setinn〉を始められたのも、社長をはじめいろんな人たちとの関係があればこそなので、恩返しがしたくて。

ーー初の著書ですが、どんなところに力を入れたのでしょうか。

僕はバイヤーで、服や靴も作ってますけど、それだけで繋がってないってところがあるんですよね。作るもの一つひとつに関わってくれる人がいて、一つひとつにストーリーがある。人があって今があるというのが僕の武器でもあるから、そういうことをお伝えできたらなあって。

ーー確かに〈MIN-NANO〉の中津川吾郎さん、グラフィックデザイナーのし さん、〈Winiche&Co.〉のKATSUさん、〈paperboy〉のジェームス・ドリディさんとの対談をはじめ、新井さんの周りのいろんな人が登場して、読み応えがありました。

ありがとうございます! 僕の周りにはヤバいお兄様たちがたくさんいるんですけど、それも皆さんが奇跡的に繋げてくれた縁なんです。僕ひとりがすごいんじゃなくて、まずビームスがすごくて、そこに色んな人たちが絡んで、どんどんすごいことができるようになっていく。友達ってすご〜い、みたいな気持ちがいつもあって、その思いを本に詰め込みました。

対談企画「Chit-chat Sessions」では、新井さんと関わりの深い人たちの対談を掲載。それぞれが考えるザ・ニュークラシックなアイテムも紹介されている。

ーー表紙の写真もめちゃくちゃいいですね。新井さんといえばインスタでいつもアップされているデスクの写真のイメージが強いですし。最初合成かと思いました。

違うんですよ。有明のテニスコートに自分のデスクや私物を持ち込んで撮りました。僕がビームスに入社する前までいちばんお世話になった場所といえばテニスコートだし、今自分を表現する場所は自分のデスクだから、そのまんま持っていったっていう。自分でやりたいって言ったんですけど、実際すごく大変で、ヤベーこと言っちゃったなあって思いました(笑)。撮影するときデスクをだいぶ整えたんで、みんなからは「綺麗過ぎる」って言われてます。

ーー(笑)。いちばん最初に新井さんの年表「Roots and History」があるんですけど、2003年に入社して店舗スタッフからスタートして、2012年に『ビームスT 原宿』の店長になりますよね。それからコラボとか別注企画をダーッと手掛けていく。店長でありながらクリエイティブの仕事をするのって、社内でも結構珍しいことなんじゃないですか?

そうですねえ、ビームスでは企画を出せる機会があるので、部署を問わず誰かのアイデアが採用されることはあるんです。でも基本的にはコラボや別注はオフィスのバイヤーの仕事だから、プレイングショップマネージャーはあんまりいなくて。レアだと思います僕。めちゃくちゃ生意気だったので(笑)。

ーーどこかで「新井に任せよう」という流れができたんですか?

以前にも中田さんたちに声を掛けてもらって、箇所ごとにお手伝いをしたことはあったんです。それが繋がったんだと思います。

ーーなるほど。そういった経験もあって、初めて2014年に〈le coq sportif〉との別注企画でスニーカーを作ると。

そうです。〈ビームス T〉で靴のデザインをやったことも、靴を売ったこともない時代に。

ーーそうか、Tシャツが軸の店舗ですもんね。もともと入社した頃から服作りがしたかったんですか?

全然です。洋服屋になりたいと思っただけです。

ーー店長になりたい! バイヤーになりたい! とかもなく?

そんな余裕なかったですもん。入社したときは先輩にくっついていくのが精一杯でした。それに僕、同期のなかではポジションが上がるのがいちばん遅かったんです。みんなが上がっていくのを見ながら、現場から離れて洋服屋じゃなくなっちゃうのが怖くて。自分はずっとプレイヤーでいようと思ってました。

ーーでも結果的に、現場にいながらもの作りをすることになるわけですね。

そうですねえ。冷静に自分を見ると、人と同じことが好きじゃなかったですね。それに変な話、明日もし僕が会社をクビになっても、ビームスは通常営業なんです。変わりはいっぱいいるから、だったらかわりのきかない仕事をしないとっていうのはありました。それに、人には順番があると思ってて。たまたま僕には順番が回ってくるのが遅かったけど、そのぶんバイヤーになったときに勝負する引き出しを増やせてたのはラッキーでした。出世は早くなかったけど、こいつ使えるじゃんって思ってもらいたくて、即戦力っていうんですか?自分でいうのもなんですけど。僕はそういう順番だったんです。

本のコンセプトは「PLAY THE NEW CLASSIC」。“歴史に敬意を払いつつ、真剣に遊ぶ”、という新井さんのモットーを全ページに落とし込んでいる。

ーー店長をしながら経験を積んで、2017年にバイヤーに。それ以降、年表に書かれている企画数を見て驚くぐらい、ビームスの別注案件を多く手掛けていらっしゃいました。特に2020年の〈ポロ ラルフローレン〉との別注では、馬の位置がいつもと違うところにあるという企画で、これまで見たことがない斬新さがありました。あのアイデアは昔からあったんですか?

はい。だって、ずっと止まってたから。

ーー馬が?

そうです。馬も歩くし、走るから、そういうストーリーがあってもいいんじゃない?って。それに、イチから違う型を作るんじゃなくて、少しの工夫でわかるものが作りたかったんですよ。だって大好きなポロにはリスペクトしかないから、今あるもので十分。それで、象徴でもあるポロプレーヤーロゴを歩かせてみようと思って、考えたのが“ムービングポニー”です。最初に提案したときは通らなかったけど、2〜3年後に「あの企画まだやりたい?」って声を掛けてもらいました。

ーー新井さんらしいし、ビームスらしい別注ですよね。

ダメって言われることも多々ありますよ。そういうときはすぐ「だよね!」みたいな。「嘘だよお、冗談冗談!」とか言って(笑)。

ーーリカバリーを(笑)。でも企画を通すのに全身〈ポロ ラルフローレン〉のレアな服を着ていったという話を聞いて、流石だなあと思いました。

最初に商談でアメリカの本社に行くことになったとき、ただいい子でハーイ!って言って終わるんじゃなくて、何か爪痕残したいなと思って。それでこれまで集めた自分の武器を着て行ったんです。何回か通ったときに「お前ヤバいの着てるな」って言われて。

ーー印象に残りますし、きっと先方も嬉しいですよね。そういうリスペクトの姿勢が別注企画には生きてると思います。

ゴローさんたちと打ち合わせしていても、絶対に違う話ばっかりしちゃうんです。そういう楽しい人たちと仕事をしているから、自分たちが作る服ってシュッとしてるというより、ちょっと抜けてて楽しそうなものになってるんじゃないかなって思います。

90年代の神様はアガシ。

ーー年表を少し遡ると、小学校の頃ってどんな感じの子だったんですか? 新井さんからは周りを元気にさせるというか、ポジティブな雰囲気を感じるんですけど、昔からそういう感じだったのかなあと。クラスの中心にいたとか。

いやいや中心なんて! でも当時からこういう喋り方だし、誰とでも仲良くなる感じでした。

ーークラスの子からすると「新井くんて面白い人」みたいな評価だったんですかね。

多分、ずっと“テニスしてる人”だったと思いますよ。学校から帰ったらすぐテニスクラブに行っちゃうから。

ーーそうか、小学校からテニスを始めてるんですもんね。

そうです。本当は野球がやりたかったんです。でも両親がテニスをやっていて、週末に連れていかれるのがテニスコートで。まず両親が先にプレーして、休憩の時間に父親と打たせてもらったり、テニスコート脇でお姉ちゃんと遊んだりっていうのがスタートでした。それで結構打てるようになってきたときに、テニスクラブに入ってみようかって話が出たんです。

ーーその頃にアンドレ・アガシの活躍を知るわけですね。

はい、90年代の僕の神様がアガシでした。お手本でもあり、教科書でもあり。だからこの本もアガシの本をオマージュして作りました。アガシは『OPEN AN AUTOBIOGRAPHY』で、僕は『PLAY THE NEW CLASSIC』。ウェアに蛍光色を取り入れたのがアガシだったんです。中学生のときに初めて見て「何これ!」って衝撃を受けて。テニスクラブはウェアも自由だったので、アガシが坊主にしたら僕も坊主にして、全部真似してましたね。ピアスだけは開けられなかったから、イヤリングを付けてテニスしてました。

7月のニューヨーク出張の際、書店でテニスプレイヤーの著書コーナーがあったのでまとめ買い。左からロジャー・フェデラーの『The MASTER』、敬愛するアンドレ・アガシの『OPEN AN AUTOBIOGRAPHY』、ラファエル・ナダルの『RAFA』。

ーー昔のテニスプレイヤーの服装って、今見るとめちゃくちゃカッコいいですもんね。

そうなんですよ。他にもピート・サンプラス、ジム・クーリエ、マイケル・チャンも好きでした。もう少し前の世代だと、ジミー・コナーズ、ジョン・マッケンロー。昔はプレーも着こなしも個性的な人たちがたくさんいたんです。でも、今のテニスウェアは機能ばっかり求めて外を歩けないようなものになってしまった。昔はそうじゃなかったのに……という思いもあって、それで〈Setinn〉を始めたんです。

ーー年表では中学のときにファッションに目覚めたとありました。

テニスクラブでサマーキャンプがあって、ニューヨークとフロリダに行ったんですけど、そのとき、馬のマークが付いてない〈ポロ ラルフローレン〉を着てる現地の子たちを見て、「何この人たち、カッコいい!」って。履いてるブーツも気になって、よく見たら〈ティンバーランド〉。日本だと当時は〈ホーキンス〉と〈CAT〉が出てきて人気だったんですけど、「俺はニューヨークで見てきたから〈ティンバー〉だ」って決めて。そういう間違いないものを教えてもらったんです。あと現地でUSオープンも見れたんですよ。アガシの試合を生で見ることができて、最高でした。

ーー本の中で〈Unlikely〉の中田慎介さんが「彼はファッションの教育を受けている」と書いていたんですけど、ご家族の影響も大きいんですか?

両親がアパレルブランドに勤めてたんです。だから実家に帰って小さい頃の写真を見ると、いい服を着させてもらってたなあって。今僕が履きたい靴を昔の自分が履いてて、ヤバッて思うこともありますよ。好きなものが今と変わってないから。

ーー親に言われるまま着るんじゃなくて、自分なりのこだわりもちゃんとあったんですね。

そうです。テニスの試合も「今日はこれを着ていく」って自分で決めてました。欲しい服があったら親にプレゼンするんですよ。『テニスマガジン』とか買ってきて、「次はこれでいきたいんだけど、売ってるところも確認してあるんで、休みの日に一緒に買いに行ってくれませんか!」って(笑)。あとあの頃って、今みたいに海外の服が簡単に手に入る時代じゃなかったんですけど、ラッキーなことにドイツと香港に親戚が住んでたから、エア・ジョーダンとかも親にお願いして「頼んでもらっていいですか!」って。

新井さんが過去に手掛けた服や靴だけでなく、自身が着ている古着やスニーカーなどもザ・ニュークラシックなアイテムとして紹介している。

ーー服好きが高じて、やがてビームスに入るという。

恥ずかしながら、テニスしかしてこなかったんですよ。その一方で洋服も好きで、それなりには追求してきました。でもビームスに入って周囲と自分のレベルの違いをすごく感じて、やばいところに入っちゃったなあって。でも負けたくないし、入ったからには頑張ろうと思いました。多分根性はあったほうだと思います。テニスをやってたし、高校がとにかく厳しかったですから。

ーー中学まではクラブチームにいたけど、高校では部活になるんですね。

そうなんです。それが軍隊みたいに厳しくて。上下関係を知らなかったから、先輩に「◯◯くんちょっと打ってよ〜」なんて言ったらめちゃくちゃ怒られて、ビックリして1週間登校拒否しました。でも休んだらすごく暇なことに気付いたし、やっぱりテニスしたいなあと思い始めて。親にも先輩がひどいって訴えたんですけど、「今のあなたにはこの厳しさが足りない」って。当時は「はあ?」って思ったけど、つまりは自分でちゃんと考えなさいってことだったんですよね。親に感謝です。あの厳しさを知ってるから、社会に出てから不条理な事態に出くわしても全然たいしたことないなって。ハートが強くなりました。

ーー本では新井さんが影響を受けた様々なアイテムが紹介されていますが、いちばんラストがアガシの本なのも印象的です。アガシとは試合を観戦する以外で直接会えたことは?

まだないんですよ。ロジャー・フェデラー、マイケル・チャン、ノバク・ジョコビッチには会えたんですけど。でも多分、多分ですよ? 多分会えそうな気がする。この先。願い続けたことが、叶えられてるんですよ。だから、思い続ければいい感じにいくんじゃないかなって思うんです。

インフォメーション

『PLAY THE NEW CLASSIC』

セレクトショップ、ビームスのスタッフによるパーソナルブック・シリーズ第7弾。ビームスのメンズカジュアルバイヤーとして数多くの別注企画を仕掛けてきた新井伸吾の、“歴史に敬意を払いつつ、真剣に遊ぶ”という哲学に共鳴するヒト・モノ・コトを紹介。著名クリエイターとの対談・インタビューをはじめ、洋服・スニーカー・テニスアイテムなどジャンルを超えた逸品たちとの出会いのストーリーも必見。センスと目利き、ニュークラシックの楽しみ方が学べるライフスタイルブック。

著者:新井伸吾
定価:1,760円(税込)
発行:株式会社Begin / 発行・発売:株式会社世界文化社
詳細:https://www.beams.co.jp/news/4091/


『PLAY THE NEW CLASSIC』Release & Talk Event 『Getting to Know Shingo』at BEAMS T HARAJUKU

開催日:8月1日(木)19:00〜21:00
※16:00〜19:00はイベント準備のため一時クローズ

『PLAY THE NEW CLASSIC』の発売を記念し、新井伸吾が1日限定店長に就任(在店は19:00〜21:00のイベント時のみ)。書籍や関連アイテムの販売を行うほか、インタビューページに登場したビームスの先輩やOBをゲストスピーカーに迎えたトークセッションを実施する。

20:00〜トークセッション
ゲスト:中田慎介(〈Unlikely〉ディレクター〉、桑原健太郎(〈LOOPS〉ディレクター)、加藤忠幸(ビームス バイヤー、〈SSZ〉ディレクター)、鈴木竹彦(ビームス メンズカジュアルバイヤー責任者、〈ビームス ジャパン〉アパレルディレクター)

プロフィール

新井伸吾

あらい・しんご|1980年、東京都生まれ。2003年にビームスのショップスタッフとして入社。『ビームスT 原宿』の店長を経て、2017年にメンズカジュアル部門のバイヤーに就任。現在までに100以上にも及ぶ別注企画を生み出したビームスきってのヒットメーカー。グローバル案件を多数手掛け、日本と海外をつなぐコミュニケーション力にも定評あり。2024年春夏シーズンより、オンコートとオフコートをつなぐスタイルを提案するテニスブランド〈Setinn〉を始動。幼少期の頃からテニスに励み、学生時代にはインカレ出場を果たすなど、実力も折り紙付き。

Instagram
https://www.instagram.com/sng1980/