鳩は鳩でしょ？ 嫌いな人も多い。
だけどニューヨーカー・パットの鳩たちを見比べていたら、ちょっと好きになってきた。

　鳩を嫌いな人は多い。それはアメリカでも同じで、“空飛ぶネズミ”なんていわれたりもするらしい。だから鳩なんてせいぜい2、3種類だと思っていたし、街で見かける鳩を見分けようとか、生態を知りたいとか、そんなことを思ったことは一度もなかった。

　ところが、アーティストがたくさん住むブルックリンのブッシュウィック地区で、鳩を150羽も飼っているとんでもない男がいる。名はパット。「トム・サックス・スタジオ」出身の彼いわく、この地域は鳩を育てて空に飛ばせる“ピジョン・フライヤー”がたくさんいるらしい。150羽なんて、アベレージだそうだ。

　パットは23歳のとき、ブルックリンで最も有名なハトショップ『Pigeon on Broadway』の目の前のアパートに引っ越した。ちょっとした好奇心からお店に入り、出てきたときにはホワイト・ローラーという種類の鳩を抱えていた。「鳩を通して地域の研究ができるって知って、すぐに夢中になったよ。この辺はアパートの大家が優しいことが多いから、屋上に鳩小屋を建ててもOKだったりして。鳩ってじつは人間の暮らす都会で共存しているでしょ？　だからもっと深く知りたくなったんだ」

　映画『ゴースト・ドッグ』や『ジョン・ウィック』の、屋上で鳩を飼う描写はリアルだったのか。ストリートで見かける鳩はそう高く飛べないということもパットが教えてくれた。たしかに街で見かける鳩がバタバタと飛び立つ先は、せいぜい電線くらいの高さまでか。気になってきたのでさらに聞くと、鳩の生態は超ユニーク。

「鳩が一度に産む卵は決まって2つで、必ずオスとメス1羽ずつ。雛が生まれたらお父さん鳩がミルクをあげるんだ。ちなみに、オスがミルクをあげる鳥類は、鳩、コウテイペンギン、フラミンゴだけだよ」

　そんな激レアな生態を持つ鳥類だったなんて。そして、ピジョン・フライヤーたちが訓練をした鳩は大空を高く飛ぶことができるらしい。

「ブロンクスではいかに高く飛べるかを競う一方、ブルックリンではきれいな群れをなして飛ぶのを楽しむんだ。まあ地域でラップのスタイルが違うのと同じだよ。ご近所と一斉に鳩を放って、何百もの群れをなして飛ぶ姿は壮観だよ！　そして飛び終わったら鳩がどれだけ自分の巣に戻ってくるかを競うんだ」。より多く鳩に戻ってきてもらうには、戻ってきたくなるような“いい家”と鳩の健康度が鍵になるらしい。「鳩のことはネットでは学べないからね！　生態は奥深くて、その飼育は永遠に続く実験的なプロセスだよ」

　映画『ゴースト・ドッグ』でも描かれていたが、都市の屋上に鳩は付き物なのかも。パットが飼育するハトを簡単に分類した簡易版の図鑑を作ってみたので、最後に鳩の違いをちょっと見分けられるようになっておこう。

読めば好きになるかもしれない
パットの鳩図鑑

1.　ショートビーク・ティップラー
チップトップ
高く飛べるので高さを競うブロンクスの鳩愛好家の間で人気。3〜4時間ほど飛び続けることもできる。

2.　ボルドヘッド・ローラー
ジップ
数あるローラー種の中でも速く高く飛べる種。鷹のように白い頭も特徴。パットの鳩もこの種がメイン。

3.　パキスタン・ハイフライヤー
マイキーシニア
空中に長く飛びとどまることができて、中東や南アジアでよく見られる。忠実に巣に戻ってくるタイプ。

4.　ダッチ・キャプシーヌ
ドンディ
ハイカラーの羽が特徴的。鳩界のスター。ピジョン・フライヤーでもあったグラフィティアーティストDONDIから命名。

5.　ニューヨークフライト
バックショット
これこそがブルックリンを代表する品種。ブッシュウィックでも一番人気。大きな群れを作って竜巻のように飛ぶ。

6.　ペンソム・ローラー
ガガ
抽象的な色味や柄で、飛んでる間に宙返りしたりもする目利き好みの鳩。NYではあまり見かけないが、LAで人気。

7.　アークエンジェル
クルエラ
スマートで忠誠心も強い。でも空を飛ぶより子作りのほうが好き。室内ペットになりがち。真っ白なのは珍しい。