ライフスタイル

家の猫の話 Vol.5

執筆: ピエール瀧

2024年7月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

我が家の唯一のメス猫ブイヨン。

長いこと一緒に暮らしていると「やっぱメスなんだよなぁ」と感じる仕草や性格を感じられる瞬間が多々あります。オイラがそれを今まででいちばん彼女に感じたのは、家に子猫のコロッケがやってきた時でした。

当初コンブの遊び相手として家に招き入れた若きブイヨンは、完全にギャル丸出しの性格でした。どちらかというと堅物気質のコンブに、ところ構わずぴょんぴょん跳ねながら「遊んで遊んで~!」と絡みまくり、そのウザさに耐えかねたコンブが「フゥ~~ッ!」と威嚇しても、「またぁ~。そんなんしちゃってから」とさらにちょっかいを出し続け、「もうギブ!」と小走りでリビングの椅子の座面(彼の安全地帯)に避難したコンブを、今度は床面からニュ~っと伸び上がって「ねえコンブ遊ぼ!遊ばないの?ねえねえねえ?」と悪魔の如き無邪気さで追撃するといった毎日でした。

そんなある日、我が家に手のひらサイズの子猫のコロッケがやってきます。

足取りもまだおぼつかない弱そうなコロッケを見て、どういうわけかギャルブイヨンの母性に突如スイッチが入り、ブイヨンがオイラの知らなかった母性の部分を突如発出し始めたのです。

ほにゃほにゃしてる痩せっぽちのコロッケを優しく懐に招き入れ、身体をぺろぺろと舐めてあげながら、見たこともない観音風情の落ち着き払った眼差しで「守る!なんか知らないけど!」とこちらを静かに見つめる始末。完璧に“母の強み”的な佇まいをまといながら。全然母になったこともないくせに……。マジで急にどうしたよ?ブイヨン?

これ以降ブイヨンの性格は完全に変わり、コンブにウザ絡みをする回数もすっかり減り、母親的な立ち振る舞いで日々コロッケを見守り続けました。しかし、コロッケが徐々に成猫に育つと彼女の母性的な仕草はだんだんと消えてゆき、今では悪めの影の女王的なポジションでリビングに君臨しています。なんか不思議。

不思議といえば、ブイヨンのヒゲは何故かいつも短くカットされています。他の二匹についてはそんなことはなく、何故かブイヨンだけに見られる不思議な現象です。自分で自分のヒゲを噛み切れるわけがないし、他の猫がブイヨンのヒゲを噛み切っている場面にも遭遇したことはありません。でも気がつくといつの間にか全てのヒゲが綺麗に整えられています。これはいまだに解決できない我が家の猫の謎です。

そして最近のブイヨンといえば、日々の爪研ぎに余念がありません。暇さえあれば、段ボールでできた猫ちぐらの外側部分で爪をバリバリやってうっとりしています。爪研ぎの回数は他のオス猫よりも圧倒的に多いのです。もはやルーティーン。

常に爪とムダ毛の処理に余念がない。そんなところもオイラがブイヨンに女性を感じてしまう理由なのかもしれません。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。フジテレビと米・スカイバウンドエンターテインメント社による共同制作ドラマ『HEART ATTACK』(24年秋以降、FODで配信予定)にも出演予定。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/