TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】越境料理、厨房に入る
執筆: 『ネグラ』大澤思朗
2024年5月15日
MOSEB MUSIC CENTER&RESTAURANTと書かれたゲートを通り、葡萄の木の下を抜けると芭蕉や檸檬の木が茂る森のような広場。奥には丸太とコンクリートブロックで建てられた半野外のステージがあり、隣接の平家はMosebBandメンバーの練習場となっている。裏手にまわって中庭に干された洗濯物を潜ると4畳ほどの小さな部屋で若きシェフ、マーシーがフライパンを揺すっていた。キッチンには流しがひとつと2台の電気コンロ。
自分たちも調理を始めたいと伝えると、マーシーのサポートで洗い物を担当している少女や、彼女たちより少し年上でオーダーや配膳を担当している女性たちが自然とキッチンに集まり、代わる代わる「大丈夫?」と聞きながら細々と世話を焼いてくれた。
「中のもの自由に使ってOK」と言いながらマーシーがエチオピアの伝統香辛料”バルバレ”をドサッとフライパンに投入し、部屋中が激辛の香りに包まれて全員でむせる、お互い恥ずかしそうにしながら表情が緩んだ。言葉じゃなくてこういう些細な瞬間で、一緒に料理をする緊張感が解ける。
「こっちでも出来るよ」と言ってみんなでカラフルなプラスチックテーブルを中庭に運びこんで一気にキッチンスペースが拡張されたり「エチオピアの人はきのこなんてそこら辺に生えてるもの食べないよ」って煙たい表情で触るのもちょっと嫌そうだったのに、ふやかした乾燥しいたけのカットを手伝ってくれたり。
互いにほんとに拙い英語と、目力で意志を伝え合うコミュニケーションは儘ならないことも多かったけれど、青空の下みんなで料理したあの時間に生まれた一体感を忘れることができない。
日が暮れて、ライブが始まり、キッチンが大忙しになるとオーダーミスが重なり、シェフマーシーとネグラ、オーダー担当のシュンドラの間で口論が起こった。互いに声を荒げるぶつかり合いでシュンドラは怒ったままキッチンから出てってしまう程だったのだが、不思議なことにしばらく経つとまたお互い笑顔でコミュニケーションをとっていた。直線的な口論と後腐れのなさが心地よかった。
思い返せば、大きくて薄暗い倉庫の中ほぼ満席状態で生ビールを飲み続けているという謎のビアホールで、親切にしてくれた男性がジャパンのワイフが欲しいと笑顔で妻を口説いていた時も、雨上がりに沼と化した道路で突然パンクしたタクシーを路肩に寄せながら運転手のアベべが「No problem」と低い声で呟いた時も、ライブ終了後にみんなで焚き火を囲んでいたら1人のおじいさんがおもむろに「しょ、しょ、しょじょじ〜」と日本の童謡を歌い始めた時も、お互いの警戒心がほどける瞬間をこの旅で何度も体験してきた。
自分たちからは未知の(未開、野蛮とさえも思ってしまいそうにもなる)想像力の外側という意識で、一歩踏み入れると、見透かされたような警戒心を向けられる。そうじゃない、今ここで一緒にいる、さあどうする、試されているけど、なかなか動けない。自分たちで作った境目は、そう簡単に超えられないけど、超えると、また超えられる気がする。
帰り道、フランクフルトで3時間くらいのトランジットでマーケットに寄り道してみた。人生初めてのトランジット、行きがけは空港の外に出るのは不安だったけど、帰り道はさっと寄れた。あと13時間くらい。ちょっと寝たらもう日本か。
東アフリカ最大のマーケット「メルカート」を探検。膨大な数の物と人が行き来している。アディスアベバの市街地から車で1時間。標高も高くなり酸素が足りない! 酸素タブレットをかじりながら散歩した。
自分達の旅の楽しみにマーケットは欠かせない、同じマーケットに連日通い何時間も滞在して季節食材、スパイス、現地の発酵調味料など知識、体験として吸収する、越境する目的でもある。
プロフィール
大澤思朗
おおさわ・しろう|妻の麻衣子とともに、高円寺にて妄想インドカレーと越境庶民料理を提供する『ネグラ』を営む。『チリチリ酒場』という屋号で、音楽や個人商店、食、お酒などを楽しめるバザールも各地で開催。『ネグラ』の営業日はInstagram(@negura.curry)にて要確認。
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