ファッション

〈パタゴニア〉から学ぶ、食と服。

スタイリスト・長谷川昭雄と考える、2024年のシティライフ。

2024年4月20日

ぼくと服と東京の暮らし。


photo: Seishi Shirakawa
direction, styling & text: Akio Hasegawa
grooming: Kenichi Yaguchi
text (dialogue): Neo Iida
edit: Shigeru Nakagawa
2024年5月 925号初出

パタゴニア プロビジョンズのオーガニックフード
鎌倉の店に入ったときに、なんでビールなんて売ってるんだろう? と思っていたら、飲めば飲むほど環境にいいって話だった。「新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も一日3度の食事をする。本気で地球を守りたいのなら、始めるのは食べ物だ」。そんなステートメントから始まった〈パタゴニア〉による食料品へのアプローチ。環境修復型の農法によって育てられた原料を使ったナチュラルワインや自然酒、ビールなど、徐々にラインナップを充実させている。その最新作はなんと味噌。千葉県産の有機大豆と有機米、食塩を原材料に、天然醸造で長期熟成することで、味わい深いコクのなかに渋みがある濃厚な味わいに仕上げた。左から、缶詰 各¥842、ロゼワイン「マインクラング エスタライヒ ー ロゼ」¥3,520、赤ワイン「フランク・コーネリッセン ピステムッタ ― ロッソ」¥4,400、スパークリングフルーツワイン「リッスン・トゥ・ユア・フルクト」¥3,520、日本酒「寺田本家 繁土 ハンド 2023」¥2,178、日本酒「仁井田本家 しぜんしゅ-やまもり 2023」¥2,310、味噌(600g)¥1,490、ビール「ロング・ルート(3種6缶セット)」¥4,092(すべてパタゴニア プロビジョンズ/パタゴニア日本支社 カスタマーサービス☎0800·887·447)

長谷川昭雄(以下、長谷川) これまでずうっと雑誌の世界でやってきたけど、昔から「できるだけ古着は出すな」って言われてたのね。ひとつしか売ってないから。「みんなが買えるものを出しなさい」って。だから僕が『ポパイ』でディレクターをやっていた2018年までは、あえてどこでも買えるものを使ってたんだ。鹿児島にいようが北海道にいようが、みんなが全国で買えるものをあえて選んでた。古着なんて使ってたらクビだよ。だから必然的に小綺麗に仕上がってたよね。そのぶん、全部洗ってから撮影してた。毎回マジで大変だったよ。寝られない。古着は最初からいい感じだからいいよね。誰でもいきなりいい感じ。

――雑誌としてはやはり、誰でも買えるものを紹介せねばという思いがありますしね。

長谷川 僕はそういうことをテーマにしてきたところがあるんだけど、今は雑誌のクレジットだけが服を買う窓口ではなくなってきたでしょ。服の名前でネットを検索したらいくらでも出てくるし、メルカリでだって買えてしまう。そう思うと新品も古着も、もはや関係ないっていうか。実物さえ写ってればそれでいいし、銘柄さえわかれば、いつの時代のものでも買えるわけじゃん。

――確かに、今はそうですね。

長谷川 消費者が全世界をターゲットに服を探し始めると、いろんなところで揃えることができる。その一方で、古着屋のほうも変化してる。このアノラックは豪徳寺の『ナーディードッグス』で借りたんだけど、彼らはこのアノラックばっかりいっぱい集めてたりするわけよ。古着屋なのに、新品を集めるかのように、ひとつのアイテムを揃えられちゃうわけだよね。昔はその一着しかなかったのが。そういう意味では新しい時代を迎えてるなと思って。

――服自体は〝一点モノ〟でも、同じモデルの色違いやサイズ違いが買えてしまう。

長谷川 そう。だからこそ、この号では古着をたくさん使おうと思ったんだ。地球にも優しいし。『ナーディードッグス』も、新しい店なのに、なんだか懐かしい気持ちになるんだよ。昔、渋谷にあった『バックドロップ』って店がすごく好きで、週2とか週3で行ってたんだけど、そこに似てる。

――え、長谷川さんが学生の頃?

長谷川 うん。高校生の頃によく行ってた。置いてある服が、その時代、’90年代のものが多いからそう感じるんだろうね。彼らは世代が違うから、置いてあるものをリアルタイムでは見ていない。そのわりには色々知ってるから面白いよ。服がどさっとあって圧倒する感じも。

パタゴニアのナイロンプルオーバー
豪徳寺に昨年夏にできた、アウトドア古着の店『ナーディードッグス』。そちらで見つけたこの〈パタゴニア〉のシェルは、’90年代初頭までリリースされていた「フェザーウェイトシェル プルオーバー」というモデル。ここらしいカラーコンビネーションは、今見ても素敵。こちらはロゴがフロントポケットに付いた古いタイプのもので、当時のカタログを開くと、急場のレインジャケットとしてフリースの上に着た姿が確認できる。20年以上たったこの春でも、きっと、雨を避ける服として使える。その品質がすごい。ヴィンテージの〈パタゴニア〉のライトウェイトナイロンプルオーバー「フェザーウェイトシェル プルオーバー」¥14,080、〈スモークトーン+キャンバー〉のヘビーオンスコットンのイージーパンツ¥13,200(ともにナーディードッグス☎03·6413·1893) 腕時計「アイアンマン 8ラップ」¥14,960(タイメックス☎03·5815·3277) Tシャツは私物

――お店にはいろんな古着が置いてあったと思うんですけど、〈パタゴニア〉を選んだのはどうしてですか?

長谷川 前に『パタゴニア』の京都店で古着を集めたイベントをやっていて、どんなものなんだろうと思ってそのためだけに見に行ったんだよ。そしたら結構安く売ってて。たぶん利益なしでやってたんじゃない? 新品より古着を、っていう頑なな姿勢がすごいし、お酒を扱ってるところがかっこいいと思ったんだ。

――古着でも、〈パタゴニア〉って変わらずいいものだなって思えるところがすごいなと思います。

長谷川 そうだね。アウトドアブランドだからクオリティも強度もある。まだ全然着られるものだったりするしね。

――古着でもリペアしてくれる修理サービスもやっているとか。

長谷川 うん。でもアウトドアブランドは、結構どこも直してくれるみたいだよ。ていうか洋服屋も、持っていくとボタンとか直してくれるらしい。〈エンジニアド ガーメンツ〉もNYのお店に行くと、どこだかの部屋に引き出しがばーっとある部屋があって、過去のボタンをいっぱい取ってあった。

――すごい。大好きな服をずっと大切に着るって、なんかいいですね。

長谷川 うん。ブランド側も、古くなっても自分たちが作った服だし、ネガティブには捉えていないのかなって。そういう点でも〈パタゴニア〉って面白いブランドだよね。特に最近、ワインや味噌だったり缶詰だったりを作っていて、興味深いんだよ。食品だけのカタログもあるし。

――えっ、味噌まで。ワインもあるんだ。お味はどうでした?

長谷川 うん。おいしかったよ。ビールも造っていて、鎌倉のお店に行ったときにお店の人に聞いたら、ビールの原料の植物を育てることで二酸化炭素が減るんだって。だからみんながビールをガンガン飲んでくれたら、二酸化炭素が減って、環境にもよくて、ハッピーなんだって言ってた(笑)。

――ハッピーな理論ですね(笑)。

長谷川 ね。〈パタゴニア〉のロゴが付いたビールの缶があるのもいいよね。