ファッション

〈エンポリオ アルマーニ〉、いろいろ。

文・長谷川昭雄/スタイリスト、ファッションディレクター

2024年4月26日

ぼくと服と東京の暮らし。


photo: Seishi Shirakawa
direction, styling & text: Akio Hasegawa
grooming: Kenichi Yaguchi
edit: Shigeru Nakagawa
2024年5月 925号初出

エンポリオ アルマーニ+アワーレガシー ワークショップのセットアップスーツ
たしか2023年の年末頃、偶然、銀座にある『ドーバー ストリート マーケット』を覗くと、このコラボレーションの服が販売されていた。突然の出来事に焦る気持ちと、目の前で販売されているという嬉しい気持ちでいっぱいになった。アルマーニ本社に眠る、デッドストックの生地を使い、〈アワーレガシー〉が製作したというシリーズ。裏地まで本家から手に入れているだけあって、生地感が素晴らしい。シャツは、自由が丘のヴィンテージショップ『エロティック』にて購入したもの。〈エンポリオ アルマーニ+アワーレガシー ワークショップ〉のウールジャケットとウールパンツ、〈ジョルジオ アルマーニ〉のシアサッカーシャツ、〈クラークス〉のワラビー(すべて私物)

エンポリオ アルマーニマガジン
1988年に創刊。ブランドにとって特別なマイルストーンのときにだけリミテッドで発行されたという『エンポリオ アルマーニ マガジン』。いつだったか、古書店で見つけて購入し、所有しているのだが、最近、事務所の整理が追いついておらず、見つからなかったために『ブルーブルー神田』の店に置いてあったものをお借りしてきた。よく見たら、まさかの1号目! モデルも写真もスタイリングも服そのものも、カッコいい。毎回、大御所のフォトグラファーによる写真を大きな判型で掲載。’90年代のイケてる大人の雑誌の裏表紙は、たいてい〈エンポリオ アルマーニ〉の広告で、いつもこんな素敵な写真だったものである。雑誌『エンポリオ アルマーニ マガジン』 参考商品(ブルーブルー 神田☎03·5577·7280)

 振り返ってみると、なんでアルマーニにここまで憧れがあるのかといえば、『エンポリオ アルマーニ マガジン』や過去の広告ビジュアルがカッコよかったからだろう。アルド・ファライが撮る、人のイキイキとした表情と、そこの空気感の中に織り交ぜられた、自然体でリラックスした洋服たちは、とても魅力的に見えていた。ブルース・ウェーバーの撮っていた〈ポロ ラルフ ローレン〉や〈カルバン クライン〉を見たときに感じる心地よさと近いけど、また少し違う、ヨーロッパらしい雰囲気が、そこにはあった。服なんかたいして写ってないのだけど、きちんと服が伝わるという、矛盾とマジックがそこにはあって、物が魅力的に見える写真だったりするのだ。下の写真の山本くんが掛けている、レンズの表にロゴが入っているサングラスは、過去に僕が見た広告ビジュアルで使用されていたのと同じものなんじゃないかと思う。富ヶ谷の『オキドキ』で、偶然、見つけて即購入した。普段、こういうデザインのものは買わないけど、ロゴの入り方が斬新でいい。そうした広告ビジュアルを見ていると、サングラスや帽子類がスタイリングのキーになっていることが多いことに気づく。他のブランドであれば、あまり力を入れない部分だと思うけど、こういった小物もしっかり作ってるところが、ここの魅力でもあると思う。同じく山本くんがかぶっているベレーは、たしか、2020年頃に〈エンポリオ アルマーニ〉の店に行き、購入したもの。少し中東っぽさもある、独特なデザインで、一目惚れした。

エンポリオ アルマーニのバルマカーンとサングラス
右/ヴィンテージの〈エンポリオ アルマーニ〉のバルマカーン 参考商品(デモオレ @demo_ore) ヴィンテージの2タックトラウザーズ¥12,100(プロップスストア アネックス☎03·6455·5388) スニーカー「VM001」¥14,300(ラストリゾート AB/ディアゲスト☎03·6452·6855) 左/〈エンポリオ アルマーニ〉のベレー帽、〈エンポリオ アルマーニ〉のサングラスは私物、ヴィンテージの〈アルマーニ コレツィオーニ〉のリネンジャケット 参考商品(デモオレ)

 古着を探すようになったのは、原宿の『プロップスストア アネックス』で〈ジョルジオ アルマーニ〉のヴィンテージのフランネルパンツを見つけてから。それ以来、ヴィンテージアルマーニをずっと探していた。でも今思えば、さほど真剣に取り組んではいなかったのだろう。この号を作るにあたり、ヴィンテージショップを探しているうちに、いろいろな店の情報が入ってきて、こんなにあるのか!? と驚いた。

 今回、一番お世話になったのは、五反田の『デモオレ』。社員編集者から最初に名前を聞いたとき、一体どんな店なのか不審に思ったけど、インスタで見る限り、扱う商品はどれも、ブランド名に頼ることなく、フォルムが美しかったり、物として優れたものばかり。きっと名店に違いないと思って伺ってみると、店主はパリに拠点を持ち、頻繁に出向いては、一つ一つ仕入れているとのこと。彼の審美眼だけで集めているというだけあって、セレクトショップのような統一感があった。このコートはそちらのお店から。肩のフォルムが抜群に美しくて、チンストラップを留めたときの襟の雰囲気も、すごくいい。そう、アルマーニの魅力は、間違いなく、パターンの美しさだ。今、僕がビッグシルエットに飽きたからといっても、ピタピタのトップスはなかなかハードルが高い。やっぱり、今は程よくリラックスした、ゆったりしたフォルムが着たい。そう思ったとき、パンツ同様、この時代に僕が求めているアウターも、結局、アルマーニなのである。