カルチャー

ラッパーの綴る、恋のリリック。/DABO

眠れない夜にたまに思い出す、“銀座”のバッドビッチ。

2023年12月24日

ガールフレンド ’24


photo: Ryohei Ambo
special thanks: Hamano
2024年1月 921号初出

自身の恋を赤裸々に歌う日本のラッパーは少ない。
でも、だからこそ聞いてみたいパーソナルな恋の1バース。

ラッパー DABO

 日本語ラップ界のラブソングマスターといえば、誰が何と言おうとダボさん。2002年にリリースした「恋はオートマ feat. HI-D」は、いわゆるセクシーなガールズたちとウハウハするステレオタイプなラップではなく、恋愛における格好悪い部分を赤裸々にラップした日本語ラップ界に残る金字塔だ。

「その前の年に、JAY-Zが6作目のアルバム『The Blueprint』を出したことがきっかけかな。『Song Cry』っていう曲が入っているんだけど、JAY-Zが下積み時代を長年支えてくれた彼女と別れてしまったことを淡々と嘆く泣きの一曲で。それまでNYのキングとして君臨していたマッチョな彼が、こんな内省的なラブソングを歌うんだっていうのが衝撃だったんだよね。ビデオでは、意味深に頬を押さえているし。この一曲で、全世界のB-BOYの意識改革が行われたのは間違いない。かくいう僕ももちろん影響されて、喧嘩が絶えなかった当時の彼女との日々を歌にしたのが、『恋はオートマ feat. HI-D』だったんだ。その8年後に同じ彼女のことを『Love and Hate』という曲にもするわけだけど。なんだかんだ40歳近くまで色恋沙汰は激しかったなぁ」


Lyric
DABO

Track
I’ll Make U Famous
-Illy Funkstaz

DABOリリック

 そんなダボさんも現在は2児のパパ。近頃は、滅多にクラブに繰り出すこともしないし(ライブやDJで呼ばれる以外)、子供の世話や家事に追われ、〝色恋のダボ〟は長らく封印したままだった。

「嫁の手前、女の子絡みの話は曲にしていなかったんだよね。でも、この話を頂いて、久々にその扉を開けてみたら、リリックが出てくる、出てくる。若いときにネタはしこたま仕込ませてもらったから、『昔、こんな恋の話があってのぉ』というスタンスで曲を書いていったら、面白いかもなという気持ちになってきたんですよね。案外、この手の格好悪い恋愛話は今の日本語ラップシーンにはあんまりないし、やっぱり恋バナは若い子たちはもちろん、おじさんやおばさんにも確実に届きますしね。で、今回、曲にさせてもらったのは、2008年頃のエピソード。今はなき『スタジオコーストアゲハ』でナンパしたグラビアアイドル級にかわいかった女の子を題材にしました。〝銀座の女〟という触れ込みで遊んでいたのはいいものの、どこか信用ならぬところがあって付き合うまでには至らなかったほろ苦い青春の思い出。途中、仲のよかった先輩に強引にその女の子を奪われて、先輩との関係も微妙になるし。その後も『連絡取っているだろ?』って何度も詰め寄られるし、蓋を開けてみたら実は〝銀座〟の女じゃなくて、〝吉原〟の女だったという。嘘つかれてたのは悲しかったね。しかも、この話にはまだまだ続きがあって、今回書き下ろした1バースじゃ全然足りない(笑)。でも、愛にはならなかったけれど、こういう歯がゆい男女間の関係こそが恋なのでは? と結婚して落ち着いた今だからこそ強く思いますね。ちなみにトラックは、’90年代のフィリーのラッパー、Illy Funkstazの『I’ll Make U Famous』の甘酸っぱいオケで。いつかはリリースするかもしれないですね」

プロフィール

DABO

だぼ|1975年、千葉県生まれ。伝説のグループ「Channel5」を経て、2000年に「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」の一員としてアルバムをリリース。原万太郎名義でイラストレーターとしても活動し、自著『札と月』内では短編小説を執筆するなどマルチ。