カルチャー
【#2】ヒップホップ新人類学
2022年6月29日
text: Jiro Ishii
僕が10代の頃、渋谷宇田川町はヒップホップの聖地だった。
当時の宇田川町は、日本のヒップホップシーンの中心とも言える場所で、最新のヒップホップを発信しているお店がいくつもあった。
中高生だった僕は、宇田川町をただ練り歩いているだけで、日本で一番フレッシュなヒップホップを体いっぱい吸収した気になれた。
今回取り上げるのは、東京を拠点に活動している97-98年生まれの5人組のクルー、Sound’s Deli(サウンズ・デリ)だ。彼らの魅力を手っ取り早く理解してもらうために、このミュージックビデオを見てもらいたいと思う。
Sound’s Deliは、自然体でいて、フレッシュで、和気あいあいとした雰囲気を持っている。無邪気に笑い合う彼らの姿は、親友と過ごした青春時代の一幕とも重なるような、なんとも懐かしい気持ちを思い出させてくれる。
ミュージックビデオで垣間見えるクールさとひょうきんさの塩梅は、90年代にアメリカ西海岸で人気を博したThe Pharcyde(ファーサイド)を彷彿とさせるし、そのThe Pharcydeが影響を与えたRip Slyme(リップスライム)にも通ずる部分があると思う。(実際にSound’s Deliのメンバーは全員Rip Slymeが好きだとインタビューで発言している)
Sound’s Deliというグループの名前は、リーダーのラッパーKaleidoが主催していた「Udagawa Sound’s Deli」というイベント名に由来している。
かつての宇田川町には「レコ村」という、レコード店が軒を連ねていた一角があった。今ではほとんどが閉店してしまったその場所で、現在も尚ヒップホップを発信し続けている「Manhattan Records」というレコード店がある。
Sound’s Deliは、そのManhattan Recordsが運営するレーベルから楽曲をリリースしている。それは彼らが「東京のヒップホップ」としての太鼓判を押されていると言っても過言ではないことだ。
東京のラッパーには、ごついジュエリーも、ハイブランドのアイテムも必要ない。飾らない本質的なかっこよさこそ、東京のヒップホップが保ってきたものだと、僕は信じている。そしてSound’s Deliには東京のヒップホップのかっこよさが備わっている。
僕は今でも渋谷に行けば、宇田川町にある「シスコ坂」の狭い階段を登りに行く。街並みはすっかり変わってしまったけど、こうして歴史が続いていることで救われる思いがある。
各地でヒップホップのプレイヤーが群雄割拠している中、東京だって負けてはいられない。彼らの行く末を、心ゆくまで応援していきたい。というか今まさに輝きまくってる最中の彼らを決して見逃すべからず。
■Sound’s Deli [サウンズ・デリ]
東京を拠点に活動するG YARD、Gypsy Well、Kaleido、Moon Jam、Tim Pepperoniから成る5MCのHIPHOP コレクティヴ<Sound’s Deli>“ We keep delivering delight and delicious sounds ”をスローガンに掲げ日々ムーブメントを起こしている。2019年12月、アトランタのプロデューサーCash Fargoと手を組み作り上げられたエクスクルーシブEP『¥ellow Ca$h』をリリース。2020年4月にリリースされたシングル『Sound’s Deli』がYOUTUBE14万再生回数を超えるストリートスマッシュとなり彼らの代表作となっている。同年2020年7月3日にはEP『RUMBLE』をリリース。2021年8月18日に1stアルバム『MADE IN TOKYO BANG』をリリース。
プロフィール
石井仁朗
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