ライフスタイル
房総野生探訪記。Vol.2
東大卒の若者が選んだ猟師という生き方
2023年12月13日
photo & text: Hiroshi Ikeda
edit: Yukako Kazuno

快晴の秋晴れといった天気ではあったが、10月にしては少し汗ばむほどの気温だった。この日、私は2度目の訪問となった。実は前回9月に訪れたとき、早朝から半日ほど君津の山々に仕掛けた罠を小林さんと見回ったのだが残念ながら獲物の姿を見ることはできず、再訪を約束し東京へと戻ったのだった。

お互いのタイミングがなかなか合わず、前回から三週間が経とうとしていた頃だった。前日の撮影が長引いてしまい体調も万全ではなかったが、朝の9時半ごろに鳴った携帯で目が覚めた。「狸と猪が獲れているのですが如何しますか?」待ちに待った捕獲報告のLINEが届いた。
すぐさま、本人へと連絡をすると、捕獲場所は館山のほうなので止め刺し(放血)を終えた状態でよければ君津の古民家で落ち合いましょうとのこと。仕留める瞬間を撮りおさめたいという欲求と、このタイミングを逃すと次はいつになるのかわからないという不安との間で葛藤したが、迷いを断ち切りカーシェアを房総半島へと走らせた。

前回同様にアクアラインを通り東京湾を渡る。都心を背に、前方には青々とした山が見えてきた。東京から1時間ほどで景色が様変わりする感覚に心が躍る。気負うことなく旅をするこの距離感は少しクセになりそうだ。古民家に到着したのはお昼を過ぎた頃で、小林さんは獲れたばかりの猪をシャワーで洗っているところだった。「15キロぐらいですね。今年生まれたての、うり模様が消えたぐらいの猪です」

暑さで肉が痛みやすいらしく、すぐに解体が始まった。先っぽに返しがついたガットナイフを使いながら、腹へ切れ目を入れていく。ほんの数時間まで生きていた猪の内臓を取り出しながら、部位の説明をしてくれる。

「これが胆嚢です。鹿にはないんですよ。若いけどレバーはそんな綺麗じゃないですね」ジャッジャッジャッと胸骨を切る音がリズミカルに鳴る。解体作業を眺めていると、不思議といつからか美味しそうな肉として見ている自分に気がつく。「冬のいい個体だったら脂がのっているんですけど、脂があるのはバラの部分だけですね」小林さんは僅かな脂でも取りこぼさないように丁寧に皮を剥いでいく。1時間ほどで猪は獣から鮮やかな赤みと薄い脂を纏った肉の塊へと変わった。

今日はまだ君津の罠の確認ができていないとのことで、休む暇もなく愛犬のアンズと共に軽トラに乗り込み出発した。猟期外は、君津では鉄砲をもちいた捕獲を行わないため、わなで獲物を獲る。

罠を仕掛ける場所は人里近い裏山のような場所が比較的多い。猪や鹿などに田畑を荒らされて困っている農家が多いらしく、民家の敷地を通って山へと入ることもある。害獣の種類は、鹿、猪、キョン、アライグマ、狸とラインナップも豊富だ。

獣の足跡を探し、けもの道を見極めながら罠を仕掛けていく。「くくり罠」と呼ばれる罠は、獣が踏み板を踏むと一瞬でワイヤーが縮まり、獣の足を捕らえる仕組みになっている。罠の周囲に枝を置きながら、餌となる米糠を撒いていく。これは、けもの道上に仕掛ける通常の捕獲法とは違い、「小林式誘引捕獲」と呼ばれる森林管理署の方が発案した方法だ。



箱罠という大きなゲージの罠にも米糠を撒き、獣を誘うために細かな仕掛けを施すが、今回はゲージの網目からすり抜けてしまう狸に場を荒らされてしまったらしい。狸以外にもアライグマ・アナグマ・鳥類など色々な動物が荒らすこともあり、人間と獣の駆け引きにはかなりの根気が必要なようだ。


屋久島犬の猟犬、アンズは楽しそうに縦横無尽に山林を駆け回る。時折吠えているのは獲物がいることを知らせているのだという。


「最近一番楽しいのは犬とやる、一銃一狗(いちじゅういっく)ですね。犬が匂いをとって、獣を見つけて吠えて追い立てたり、その場所まで人間を案内してくれる。そこで鉄砲で撃つというのが最高に興奮しますね。罠だと一人で完結しちゃうけど、犬と一緒なら喜び合えるし。山だと人間よりも犬の方がすごく役に立つんですよ」小林さんはアンズの話になると父親のような表情で饒舌になる。


私も少しでも小林さんの役に立てればと思いつつ、必死に山の斜面に目を凝らしながら獣道を探していると、突然茂みからガサガサッと音がした。人の気配を察したのか、鹿の群れが一斉に走り去っていった。人家から10メートルぐらいしか離れていない場所だが房総半島は生き物が豊かな場所だということを実感させられた。
プロフィール
小林義信
こばやし・よしのぶ | 「東京大学狩人の会」会長。合同会社 日本自然調査機構代表。茨城県生まれ、東京大学農学部を卒業。第一種銃猟、わな猟、網猟の免許を所有。狩猟活動のほか、山間地域の動植物の生態調査も行っている。
執筆者プロフィール
池田宏
いけだ・ひろし | 写真家。1981年生まれ、佐賀県小城市出身。2006年に大阪外国語大学外国語学部地域文化学科アフリカ地域文化専攻スワヒリ語卒業後、studio FOBOSに入社。2009年よりフリーランスで活動。2019年に写真集『アイヌ』をリトルモアより刊行。2020年、日本写真協会新人賞受賞。
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