カルチャー
観れば感じる、浪曲のソウルとテンダネス。
ドキュメンタリー映画『絶唱浪曲ストーリー』公開。
2023年7月1日
身体中から湧き出るグルーヴ。哀愁と情緒、情念の籠ったリリカルな声。見るものの心を鷲掴みにする言葉とリズムの力。舞台上で繰り広げられるインタープレイ。そして演者がみせるパワフルな生き様。これはジャズでも、ミュージカルでも、オペラでも、パンクでもヒップホップでもない。しかしそのどれでもある、と言わせてほしい。予告編を見てもらえれば分かる通り、今回紹介するドキュメンタリー映画『絶唱浪曲ストーリー』で描かれるのは浪曲の世界だ。
浪曲は、明治時代初期から受け継がれる演芸の一つ。そのルーツは約800年前ともいわれ、浄瑠璃や説経節、祭文語りといった声の演芸が基礎となり、大道芸として始まったストリートな芸能。「曲師」と呼ばれる三味線の演奏者が奏でる伴奏のもと浪曲師が物語を「語る」スタイルで、昭和初期から中期、レコードやラジオの普及とともに一大ブームが巻き起こった。「昭和22年の芸能人長者番付ではトップ10のうち7人が浪曲師」という今では信じられない話もある。テレビの登場とともにしばらく衰退の一途を辿るが、近年、落語人気に続いて講談そしてこの浪曲といった寄席演芸の世界がひたひたと盛り上がりを見せつつある。
本作の主人公となるのは、そんな浪曲の世界に飛び込んだ港家小そめ。伝説の芸豪、浪曲師・港家小柳に魅せられた彼女が弟子入りをしてから、晴れて名披露目興行の日を迎えるまでの物語。関東唯一の浪曲の常打ち小屋である浅草・木馬亭を舞台に、人生が交錯していく様、そして魅力あふれる浪曲の世界が映し出される。
映画で映される小柳師匠の語りには驚くばかり。正直な話、人間の声と三味線の音がこんなにもソウルフルかつスリリングだとは思いもしなかった。語りとも旋律ともとれる”声”と、それに息吹を吹き込む弦の音。音の景色を見るものの前に現前させ、気づけばその世界に没入している。全盛期を知る浪曲のレジェンドたちは今や80、90代。曲師の玉川祐子師匠は昨年、現役で100歳を迎えた。芸の継承と下の世代の育成という、浪曲文化の未来を賭けた人と人との繋がりと支え合い、師弟関係且つおばあちゃんと孫による、”今っぽくない”どストレートで本気の交流が、どこか居心地が良い。
製作・撮影・監督を務めたのは川上アチカ。フランスの映像作家ヴィンセント・ムーンの撮影のために「日本にある魂を震わせる音」を探そうと浪曲の定席を訪れたことがこの映画の始まりだったそう。企画は頓挫してしまったものの、この物語を届けるという使命感に駆られカメラを回し始めたという。「こちらに訴えかけてきては変化していく物語に従って撮影を続けた」と監督が言うように、もはや映画そのものが、唸りをあげる浪曲の世界に思えてくるのである。
POPEYE Webのポッドキャスト番組『Small Alley Chat』では川上監督をお呼びして、映画にまつわることから雑談まで自由に話しています。約1時間ほどなので映画の鑑賞に合わせてぜひ聴いてみてください!
まだ浪曲の魅力を知らない読者のために、川上監督から「Spotifyで聴けるおすすめの3曲」をセレクトしていただきました。こちらもぜひチェック!
「(Spotifyで聴ける)川上監督のオススメ浪曲3席」
①伊丹秀子『乃木将軍の墓参り』
川上アチカ
「七色の声」と呼ばれるほど、多彩な声を持っていた伊丹秀子。
一人で演じているとは信じがたい老若男女の演じ分け、全身に浴びせられるかのような声の圧に、ただただ感動します。天才的。題材に時代の影が色濃く、浪曲の脚本が作られる動機についてにも考えさせられる一席。
②初代京山幸枝若『千人坊主(実況盤)』
川上アチカ
河内音頭でも人気を博した京山幸枝若のグルーヴィーな声の魅力は勿論ですが、注目して欲しいのはお三味線の音色。実況盤ならではの奔放さで、曲師:藤信初子、小池菊江が弾くキレッキレの二丁三味線に心躍ります。
くう〜!かっこいい!
③二代目広沢虎造『お民の度胸』
川上アチカ
「江戸っ子だってねえ、鮨食いねえ」でおなじみの清水次郎長伝で一斉を風靡した、二代目広沢虎造。
ヤクザな男たちの荒っぽい諍いを冷静に見据え、度胸たっぷりに収める女房のお民に惚れ惚れ。たじろがない態度の根底に流れる深い愛、いい女だねえ。物語の山場で「ちょうど時間となりました〜♪」と終わるのも、続きが聴きたくなる連続モノならでは。
インフォメーション
『絶唱浪曲ストーリー』
2023年7月1日(土)より、[東京]ユーロスペースにて公開、ほか全国順次公開。
出演:港家小そめ 港家小柳 玉川祐子 沢村豊子 港家小ゆき 猫のあんちゃん 玉川奈々福 玉川太福 ほか
監督・撮影・編集:川上アチカ
プロデューサー:赤松立太 川上アチカ 土田守洋
アソシエイトプロデューサー:秦岳志 藤岡朝子 矢田部吉彦 編集:秦岳志 整音:川上拓也 カラリスト:西田賢幸 本編タイトル:大原大次郎 写真撮影:五十嵐一晴 協力:木馬亭 (一社)日本浪曲協会 配給:東風
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
2023年/日本/111分/DCP/ドキュメンタリー/英題:With Each Passing Breath
ピックアップ
PROMOTION
〈バレンシアガ〉と〈アンダーアーマー〉、増幅するイマジネーション。
BALENCIAGA
2024年11月12日
PROMOTION
ホリデーシーズンを「大人レゴ」で組み立てよう。
レゴジャパン
2024年11月22日
PROMOTION
〈adidas Originals〉とシティボーイの肖像。#9
高橋 元(26)_ビートメイカー&ラッパー
2024年11月30日
PROMOTION
うん。確かにこれは着やすい〈TATRAS〉だ。
TATRAS
2024年11月12日
PROMOTION
人生を生き抜くヒントがある。北村一輝が選ぶ、”映画のおまかせ”。
TVer
2024年11月11日
PROMOTION
〈バーバリー〉のアウターに息づく、クラシカルな気品と軽やかさ。
BURBERRY
2024年11月12日
PROMOTION
この冬は〈BTMK〉で、殻を破るブラックコーデ。
BTMK
2024年11月26日
PROMOTION
〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
PROMOTION
メキシコのアボカドは僕らのアミーゴ!
2024年12月2日
PROMOTION
「Meta Connect 2024」で、Meta Quest 3Sを体験してきた!
2024年11月22日
PROMOTION
〈ティンバーランド〉の新作ブーツで、エスプレッソな冬のはじまり。
Timberland
2024年11月8日