カルチャー

【#3】映画住宅の不動産屋

執筆: 瀬尾憲司

2023年2月22日

text: Kenji Seo(kenchikueigakan2023)
edit: Yukako Kazuno

2023年2月23日(木・祝)〜26日(日)の期間で飯田橋にあるアンスティチュ・フランセ東京にて「建築映画館」という映画祭を開催する。私はこの映画祭を主催している一人だ。

映画を鑑賞していて、そこに映る街並みや建物に、ときめいたり、憧れたり、あるいは、恐怖心や哀愁を抱いたりしたことはないだろうか。映画は脚本や役者の演技、音楽などさまざまな要素によって構築されており、空間もまたそのうちの一つである。「建築映画館」では複数のプログラマーが選んだ個性豊かな「建築にまつわる映画」を上映する。尖った実験映画や、ほっこりするドキュメンタリーなど古今東西多種多様な映画を建築という切り口で取り上げている。そのなかでもテーマ「図面」で紹介する3作品は、多くの方にも馴染みやすいフィクション映画だ。

『雪夫人絵図』© 国際放映

図面と聞くと、とっつきにくい印象をもつ人もいるかもしれないが、みなさんもアパートやマンションを探す際に、一度は不動産屋で手にしたことがあるのではないだろうか。検討している物件の図面を眺めていると、本棚はここに置こうかとか、持っているソファが通れる十分な廊下の幅があるだろうかとか、そうした未来への想像がふくらむ。図面には時間を超える想像力を掻き立てる力がある。

「図面」のテーマの上映回では、映画のなかの建築を描いた図面を会場で配布する。これがあれば、映画に登場する空間を、鑑賞後も反芻することができる。複数のシーンをまたいで登場する建築を描いた図面には、映画の中のさまざまな時間が統合されているため、図面を眺めていると印象的だったシーンが頭のなかで再生されるだろう。

『底抜けもててもてて』Images Courtesy of Park Circus/Paramount

また、このテーマで上映する作品はどれも住居が舞台となる映画。溝口健二監督による『雪夫人絵図』(1950)では格式高い木造の日本家屋が、ジェリー・ルイス監督による『底抜けもててもてて』(1961)では大きな吹き抜けが魅力的な4階建ての女子寮が、黒沢清監督による『クリーピー 偽りの隣人』(2016)では特徴的な配置にある(一見普通の)住宅が、登場する。どれも異なる魅力を放つ名映画住宅だ。

こうして考えてみると、我々は映画に登場する住宅を紹介している不動産屋なのかもしれない。スクリーンで映画を浴びた後は、図面を眺めながら、そこで暮らす自分を想像してみてはいかがだろうか。

『クリーピー 偽りの隣人』© 2016「クリーピー」製作委員会

プロフィール

建築映画館2023

建築をテーマとした映画祭。2/23〜2/26、アンスティチュ・フランセ東京にて開催。今年度は「構造」「建築と人物」「図面」「アーカイブ」「都市」の5つのテーマで作品を紹介。上映に併せ、映画・建築双方の分野からゲストを招きトークショーも開催予定。映画館という建築物に集うことで、映画のなかの建築をフレームの外へ拡張させ、実際の都市・建築の議論へフィードバックすることを目指している。

2月25日(土)
『雪夫人絵図』12:10〜13:40
『底抜けもててもてて』14:20〜16:00(チケット完売)
『クリーピー 偽りの隣人』16:40〜18:50(チケット完売)
完売作品は当日券の販売予定なし。その他の上映作品の販売状況については公式HPに記載。

Twitter
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Official Website
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