ライフスタイル
【#4】好きな大好きなカード
2022年12月30日
text: Testuo (WARAIMESHI)
小さい頃から腕時計とネクタイに憧れを持っていました。そしてそれらを正しく装着するために、早く大人になりたいと思っていました。また、より渋い大人になるため、大人になる前から雑誌に理想を求めることもありました。
その感覚には、元々、違和感という言葉は介在していませんでした。大人には腕時計、大人にはネクタイというふうに、各々が同じ分銅を乗せて釣り合っていたのです。もちろん、腕時計にはネクタイというバランスも平衡を保っていました。しかし頭の中の天秤は、平衡を保つことによる好感と、どちらかに思いっきり傾くことによる好感があるのだという真理に、いつの頃からか気づいてしまったのです。影に潜んでいた違和感による刺激は、蓮根の茎のように気づかれないうちにもっこもっこと進展し、やがてそんな好感の一部は、好色へと変遷していきました。
白衣にハイヒールはどうでしょうか。留袖に濡れた髪はどうでしょうか。振袖に大衆居酒屋はどうですか。金髪ギャルにリクルートスーツはどうですか。人それぞれだとは思いますが、そういった違和感の追求は、前出の雑誌ではなくまた別の雑誌に求められるものでした。ローソンの窓側の棚には、いろんな立ち位置がありました。
写真つきの雑誌は、たとえ被写体が静止していたとしても、その魅力を最大に伝えてくれるところに醍醐味を感じます。なんとなく、翻してくれているのです。ロングコートを羽織っている大人の男性は、紙の中では静止していましたが、頭の中では闊歩していました。しかも、運動靴ではなく革靴なのに早歩きをしていました。ネクタイもしていました。腕時計もしていました。コート革靴ネクタイ腕時計に早歩きでした。大人のクールさに、ハードなスケジュールという違和感が纏わりついていて、そこに好感を持ちながら憧憬を抱いていました。
同じように、花札にも比類ない魅力を感じていました。花単体の絵柄もあれば、そこにのこのこやってきた鳥や月の絵柄もあり、やはりそれらは風によって翻っていました。またトランプのような数字ではなく、一月ずつに割り振られた12色の花による遊戯は違和感の塊でした。就中、桐の20点、桐に鳳凰という札が好きでした。単体でも美しい桐の頭上が、鳳凰かなにかよくわからないもので覆われています。左右に桐と鳳凰を乗せた天秤は常に上下していて、12月のSDカードは孤高の画像を動かせてくれています。
プロフィール
哲夫(笑い飯)
1974年、奈良県生まれ。芸人。2000年に西田幸治とお笑いコンビ「笑い飯」を結成し、2010年「M-1グランプリ」の王者に。MBSラジオ「笑い飯哲夫のニュースシャワー」、朝日放送ラジオ「笑い飯哲夫のしんぶん教室」、奈良テレビ「笑い飯哲夫のおもしろ社寺めぐり」など多方面で活躍中。
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