ライフスタイル

【#3】紹介

2022年12月23日

 あなたが正しい器官を使って空気の出し入れをしているなら、その装着は、耳が痛いだけでなんの意味もないですよ。

 これは、細長い移動空間で、言葉を発することなく、顔の中央にある突出した部分を世間に晒した格好でひたすらあれを装着している人に、ぜひ読んでもらいたいと思っている一文です。

 あの不完全な状態のあれは、無言であるからこそ分泌液を放出しえない器官だけを、必死で守っているように見えるのです。ミサイルを撃ってくる相手の方角に防壁を構築せず、ミサイルを全く撃ってこない相手の方角に高く聳え立つ防壁を建造しているようなものです。エンジンのかからない車の運転席に乗り込んで、ひたすらアクセルを踏んでいるようなものです。そうして、シートに埋め込まれた臀部からは屁が放たれているのです。毒キノコの毒の微々たる成分を取り入れ、毒キノコの毒の微々たる成分を世界に放出し、目の前にある松茸を食べていないようなものです。かわいそうです。その松茸のように露出された突起物の両穴で呼吸をしているなら、ですが。

 もちろん、喋っていらっしゃる時は、あの状態の装着であっても意味があると思います。喋ると必ず噴出するであろう分泌液を遮断してくれているわけですからね。また、くしゃみや咳をなさった時にも、あの状態のあれは少なからず役に立っているのだと信じています。

 しかし、自分でも不思議なくらい、あの不完全な装着の人を見た刹那、冒頭の一文が頭を過ぎるのです。

 小学3年くらいの時でした。日曜日に学校の運動場でひっそりと遊んでいました。日曜日だったので、6年生くらいの歳上の人たちは、各々の片手にビンのジュースを貼りつけて輝いていました。定期的にラッパ飲みをするその姿を見て、お兄さんたちは大人だと思ったものでした。その途端、一人のお兄さんが、ラッパの姿勢になっていないにもかかわらずビンを傾け、運動場にジュースを溢したのです。

「地面でもシュワーて言うてるわ」

 お兄さんにとってはちょっとした炭酸の実験だったのでしょうが、あのもったいない実験を見た日から、胃に入れてもらえなかったジュースの不甲斐なさを憂慮したあの日から、頭の中に虫が住み着いたのです。それそうすんのとちゃうねん虫です。

 ふるさと納税の返礼品で、息苦しくならないやつ、ありますくよ。またどこかで紹介しますくね。洒落ってそうすんのとちゃいますくか。

プロフィール

哲夫(笑い飯)

1974年、奈良県生まれ。芸人。2000年に西田幸治とお笑いコンビ「笑い飯」を結成し、2010年「M-1グランプリ」の王者に。MBSラジオ「笑い飯哲夫のニュースシャワー」、朝日放送ラジオ「笑い飯哲夫のしんぶん教室」、奈良テレビ「笑い飯哲夫のおもしろ社寺めぐり」など多方面で活躍中。

Twitter
https://twitter.com/waraitetsuo