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【#3】愛猫が真珠になって帰ってきた 

2022年11月24日

photo & text: Ushio Yoshida
edit: Yukako Kazuno

 19年間、ともに暮らした猫が死んだ。名前はキクラゲ。耳の触感がキクラゲに似ていることから命名。美しくて大きいキジトラの雌猫で、なかなかに女王様体質だった。機嫌の悪いときは何度も噛まれて、腕や足が腫れた。きれい好きで、毎朝ベランダでブラッシングを要求された。冬は太ももの上に乗ってくるので、身動きが取れなくなる。夜は布団の中に入って、私の股間でこっぽりと丸まって寝た。気高くて、容易に人には懐かない。ツンデレの激しい子だった。享年20歳。

 心にぽっかり穴があく。気がつけば泣いていた。キクを想って泣くときは、通常の涙と成分が異なるのか、ヒリヒリして痛かった。そのとき、友人の増田智江が声をかけてくれた。

「キクを真珠にしてみない?」

 彼女が手がけているのは「真珠葬」。ペットの遺骨の小さなかけらをアコヤガイの核に入れ、長崎県·五島列島の奈留島の海で真珠に生まれ変わらせるというもの。海と天候とアコヤガイに委ねるため、自然界の機嫌次第なのだが、骨壺を抱いて泣く日々からほんのちょっと前向きになれそうな気がして。それが2019年10月のこと。

遺骨のかけらが奈留島に到着。

海の中で育つ様子は、逐一LINEで動画や写真を送ってもらえる。「キクは今、こんな綺麗な海にいるんだ…」とうらやましくなった。亡くなると過去の思い出しか浮かばないが、「今、現在のキク」に思いを馳せることができた。キクと私の時計は止まっていたのだが、真珠葬によって再び針が動いた、そんな感覚がある。

専用のタグとともに、大切に保管される。
地元の「三兄弟工房+1」さんが作ったロッカー。
部屋番号は手作りマグネット。あとでもらえる。
遺骨とICチップが入った「虹守核」完成。

 そして、2021年4月。奈留島へキクを迎えに行った。迎えに行かなくても、送ってくれるのだが、キクが真珠に生まれ変わった海が見たかったから。自分の手でアコヤガイを掃除し、開く。12ミリ大の真珠2粒になって帰ってきたキク(ちなみに貝柱は刺身で美味しくいただく!)。手間暇かけて育ててくれた職人の清水多賀夫さん、この事業を支えてくれた長崎大学の松下吉樹教授(愛犬のランちゃんは真珠葬第1号)、奈留島の海に感謝である。そして真珠葬の発案者である増田智江は、私の恩人となった。

12ミリの大きな真珠が2粒。突起が‼︎

 今、出かけるときは必ず、キク真珠ペンダントを身につけている。あまりに大きくなって帰ってきたので、ペンダントヘッドも無駄にデカい。私の鎖骨の間にこっぽりと丸まっているキク。ぴょろんとツノが生えた真珠は、いかにも凶暴なキクらしい。

専用ケースとフォトスタンドに入れて帰宅。

キクが与えてくれたご縁は、想像以上に広がった。それは次の最終回に書こうと思う。

「真珠葬」増田智江(右)と私。感謝しかない。
アコヤガイの貝柱はおいしくいただきました。

プロフィール

吉田潮

よしだ・うしお|1972年生まれ。法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康・美容雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランス。テレビドラマ評を中心に『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。『週刊女性PRIME』『PRESIDENT Online』などに不定期寄稿。NHK『ドキュメント72時間』の「読む72時間」(Twitter)と「聴く72時間」(Spotify)を担当。介護や家族問題、マンション理事会も鋭意取材中。トレースイラストも描く。

Official Website
yoshidaushio.com