ライフスタイル
【#2】我が夫が来年、廃業する。
2022年11月17日
photo & text: Ushio Yoshida
edit: Yukako Kazuno
静岡・清水で100年以上続く干物屋を継いで、約10年。業績不振ではなく、「致命的な原料不足」が決意の理由だ。原料のアジやサバは、長年ノルウェー・オランダ沖から輸入して加工してきた。安価で脂ののった大ぶりの魚は、ここ数年で激減。


稚魚を取らず、サイズで漁獲量を決める「漁業管理」を徹底している国は、持続可能な漁場を築いている。魚の値段も安定し、漁師も潤い、後継者も育つ。日本に輸出しなくても、高値で爆買いしてくれる他の国へ輸出量を増やすのは当然の流れだ。日本の国力の低下を感じずにはいられない。
また、魚を食べなくなった「食文化の変化」も大きい。魚を焼くグリルがない家が増えた。魚を焼く香りを「くさい」という人も増えた。サイズが揃っていないと仕入れないスーパーや小売店も多い。夫は廃業を考え始めたとき、食べることができなくなって10㎏ほど痩せた。
日テレで『ファーストペンギン!』というドラマが放送されている。ひとりのシングルマザーが寂れた漁師町で、頑固な漁師たちを束ね、生産・加工・販売を一貫して行うビジネスに成功したという実話に基づくドラマだ。主演は奈緒。漁師を演じるのは堤真一・梶原善・吹越満ら。ファーストペンギンとは、集団の中から最初に海に飛び込む、勇気あるペンギンのこと。次世代を考えない漁業の因習を打ち破る姿をなぞらえている。漁協を通すことで、漁師たちの利益が少なくなる前近代的なシステムをやめ、皆が潤う漁業を提案。「長いモノには二度と巻かれない」不屈の魂でヒロインが、漁師や漁協を変えていく姿は眩しく見えた。


夫はファーストではなく、ロンリーペンギンだった。販路を広げるために、仲卸に加えて小売業も始めた。借金もすべて返済し、火の車だった経営状態を黒字に立て直した。通信販売も始め、タレントの北斗晶さんが紹介してくださったおかげで大繁盛した。それでも、原料が入らなければ干物は作れない。


そもそも干物の純利益は1枚50円にも届かない。クール宅配便の値段はどんどん値上がりし、「送料無料を当然のサービス」と考える消費者も増えた。あれ、巨大企業や大手には可能でも、零細企業には身銭を切る話だからね。干物の単価を上げればよいのだが、頑固に「安くておいしい干物」にこだわり続けた。
ひとりで頑張ってきた夫を誇りに思う。そして、あの干物が食べられなくなることを残念に思う。
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