カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.9
紹介書籍 『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』
2022年9月15日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
私はファッキン考えることができる
白い羊の群れから一匹の黒い羊がはみ出して、反対方向へと走っていく。
80年代ハードコアパンクの名盤、マイナースレットの「Out Of Step」のジャケットに描かれた“はずれ者の黒い羊”は、パンクの思想を象徴的に表している。
群れず、はみ出し、自主独立する。
表題曲Out Of Stepの中で、ボーカルのイアン・マッケイはこう叫ぶ。
I don’t smoke
I don’t drink
I don’t fuck
吸わない、飲まない、やらない
それは「セックス、ドラッグ、ロックンロール」的な旧いロックの価値観への反抗的態度であり、多くのパンクスたちがドラッグやアルコールで自暴自棄になる中、自分は一人で反対方向へ向かうという意志表明なのだが、大事な部分はその次にくる歌詞に集約されていると思う。
at least I can fucking think
少なくとも、私はファッキン考えることができる
パンクは初期衝動も大事だけど、長く続けて進化をしていくためには考えることが不可欠だ。イアン・マッケイは後にフガジを結成して音楽性を進化させ、パンクに留まらず、エモやオルタナなどインデペンデント音楽シーンの進化に多大なる影響を与えた。
そんなパンクスの進化について思考を巡らしていたのは『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』を読んだからだ。
動植物の進化の過程から人間らしく生き抜くための知恵を学ぶ本書の中で、農学博士である著者は様々な事例をあげて“はずれ者”や“敗者”が進化をつくってきたと述べ、その理由をこう説明する。
「勝者は戦い方を変えません。(中略)負けたほうは、戦い方を考えます。そして、工夫に工夫を重ねます。負けることは、「考えること」です。そして、「変わること」につながるのです」(P.140)
海から川へ、川から陸へと進化していったのは、生物同士の戦いに負けて、追いやられ、迫害された弱者であり、考えて自らを変化させていった敗者たちだった。
パンクスもまた、この社会に違和感、生きづらさ、劣等感を感じる弱者や敗者たちだった。考えて、社会からはみ出して、自分の居場所を自分で作る必要があった。だからこそ、異端な音楽性を進化させ、後に続く90年代以降のオルタナティブロックの源流となった。
さて、動植物やパンクスに限らず人類の進化もまた弱者がつくってきたそうで、進化を遡ると、がっしりとした体格で知能も優れていたネアンデルタール人が滅び、身体が小さく知能も劣っていた弱者のホモ・サピエンスが生き残って我々人間へと進化していった。なぜなら、弱かったホモ・サピエンスは仲間と「助け合う」能力を発達させたからだという。急な環境の変化が起きた時に、仲間と助け合う能力がなかったネアンデルタール人は滅び、弱くとも「助け合う」ことができたホモ・サピエンスが生き延びたのだ。
助け合う、つまり、ユニティ。群れずに自主独立するD.I.Y精神と共に、仲間同士の連帯を大事にするユニティの精神もまた、パンクスがずっと大事にしてきた価値観だ。
身体がひょろく、精神も軟弱、知能も優れていない私は本書を読んで救われたような気持ちになった。自暴自棄に酒を呑んで思考停止してばかりでなく、ちゃんとfucking think、考え続けて、助け合って生きていかなきゃなと思った。
紹介書籍
はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密
著:稲垣栄洋
出版社:筑摩書房
発行年月:2020年6月
プロフィール
小野寺伝助
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