ライフスタイル
【#2】遠くの「現場」、近くのテープレコーダー
2022年8月22日
photo: Emerson Kitamura, Nanako Ito (profile)
text: Emerson Kitamura
edit: Ryoma Uchida
僕が今いる東京から直線を引いて、一番遠くでやったライブはどこかと考える。それはケニアのナイロビで、2019年のこと。ふちがみとふなとと共に訪れて、ソロでは芸術家の拠点でトークをしたり、赤土の道と穏やかな林が印象的なカフェでライブをした。その次はMUTE BEATでツアーした、1989年の合衆国。先日『C’mon C’mon』という映画を観たら、描かれていたニューヨークの街角が、今まで見た何よりもその時の印象に近かった。ドイツ・イギリス・ベルギーでは2019年にシンガーのmmm(ミーマイモー)と数都市を回って、我々に比べてすべてが少しずつ「がんばれている」インディシーンの力を見た。フランスでは2009年に、キセルとフェスに出演した後のパリでソロライブ。アルジェリア出身でパンク好きのバーテンダーとポーランドから来ていた学生の前で演奏した。そのあとは那覇、ソウル、韓国の海沿いの街ソクチョ、札幌……と続く。

さぞいろいろな体験をしたのだろうと思われそうだけど、「現場」ということに限って言えば、自分のすることは世界のどこまで行っても一緒だ。まずは自分の居場所をぐるっと眺め、キーボードの置けるテーブルを借りて、それから電源の場所を探す。数時間後には音で満たされるはずの、その空間を予想しながらサウンドを作る。ある意味ではルーティーンだ。東京から1万km以上離れたナイロビのカフェの隅っこでコンセントを探していた時にはさすがに自分でもあーあと思ったのか、写真を撮ってあった。
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ソクチョ 2018年5月 -
ナイロビ 2019年3月
しかし、ライブの本番には二度と同じものがないと分かっているから、その準備はあえて決めごと通りにやる。キャパが20人であろうが一万人だろうが自分自身は変わらずにいられることが良いパフォーマーの条件だとすれば、「現場作業」とは、自分が余計な自意識から離れるための作業でもあると感じている。

だからというわけではないけれど、リハーサルの後には街を歩く。会場から知らない街に一歩を踏み出す瞬間が、僕は一番好きだ。
僕の街歩きには変なルールがあって、(1) 地図を見ない。迷って本番に支障が出ない限り、勘だけで歩く。(2) 目的を持たない。有名スポットはもちろん、自分の好みの場所ですらなくてもいい。頭の中では「あ、店だ。人だ。交差点だ。曲がる?曲がらない?」と、見たままのことだけが流れている。(3) できるだけ「一筆書き」で歩く。たまに行きと同じ道を戻ると、ものすごく損をした気分になる。
昨年COVID-19に罹り、入院を断られながら自宅で高熱を出していた時、こうやって訪れた街たちを思い出しては「脳内ストリートビュー」をやっていた。ルールは同じ。あそこに何があって……と俯瞰的に思い出すことはせず、実際に歩くのと同じ時間を費やして、風景だけを目に浮かべてゆく。我ながらなかなか良い、病床での時間の使い方だった。

プロフィール
エマーソン北村
エマーソン北村ウェブサイト
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「船窓 / おろかな指」bandcamp
https://emersonkitamura.bandcamp.com/album/porthole-stupid-fingers
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https://ultravybe.lnk.to/porthole_stupidfingers
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