ライフスタイル

【#1】遠くの「現場」、近くのテープレコーダー

2022年8月17日

photo: Emerson Kitamura, Kawasaki Shimin Plaza, Nanako Ito (profile)
text: Emerson Kitamura
edit: Ryoma Uchida

COVID-19によってたくさんの人が、仕事や生活に大きな変化をこうむっている。僕自身も2021年に感染し、同時に感染した連れ合いは現在でもさまざまな体の不調に悩まされている。
僕にとっての一番大きな変化は、やはりライブの現場が減ったことだ。僕にとって「現場」とは、音を出すためだけの場所ではない。自分でそこに向かい、自分で楽器をプラグし、集まったミュージシャンやスタッフとくだらない話をしながらも何かを得る。つまり、自分で自分がそこにいる「理由」を作り出せる場所だった。今でもその意識は変わっていない。だけど、ライブやフェスが次々とキャンセルされた2020〜21年に比べて本数だけは戻ってきたものの、相変わらずライブの当事者に大きな身体的・心理的・経済的負担を課したままイベントが実施されている今の状況を見ていると、僕の「現場喪失感」はなくならないばかりか、むしろ大きなものになっている。

エマーソン北村
東京
東京 2022年8月

そんな中で先日、川崎市民プラザの企画によって「プラザ・おへやライブ Vol.1 ~エマーソン北村 トーク&ライブ~」というイベントが行なわれた。出演者は僕ひとりで、前半は僕に影響を与えたレゲエ・ブラジル音楽・アフロポップ等の成り立ちについて演奏を交えながらトークし、後半はしっかりソロライブ(エマソロと呼ばれている)をするという構成。担当者さんのアイデアで、世界地図にその地の音楽と歴史をプロットしてゆくような冊子も作った。アンコールとして行った質疑応答では僕の曲作りや、演奏者としての活動とソロ活動との関係についてお客さんと話し合った。質疑応答とは良いものだ。質問に対してとっさの答えを探していると、自分では別々だと思っていたことが見事につながったりする。自分にはまだこんな新しい形の「現場」があるんだなあ、と思わせてくれる一日だった。

イベントの後で、考えた。僕は、ケニアのナイロビから下北沢にいたるあらゆる場所を「現場」としてきた。だけど今後、僕が経験してきたようなライブのあり方は、大きく変わってゆくだろう。それでも、せき止められた水が地下を通って思いがけない場所からあふれるように、表現というものは、必ず新たな「現場」を見つけ出す。それを見誤ることのないよう、今は距離的にも時間的にも遠いところにある僕の「現場」を、もっと自分の毎日に引き寄せることはできないだろうか。思いがけないところで、それらはつながっているかも知れないのだから。
ところで僕はいったいどんな「現場」を経験してきたのか?その話は【#2】で。

エマーソン北村
ナイロビ
ナイロビ 2019年3月

プロフィール

エマーソン北村

えまーそん・きたむら | ミュージシャン。1980年代末から現在まで、常に音楽シーンの渦中にいてその動きに携わってきた。キーボード奏者として忌野清志郎&THE2・3’s、EGO-WRAPPIN’、キセルなど多くの個性的なバンド・シンガーと共演し、「エマソロ」と呼ばれるアーティスト活動では、国内外で注目される作品を自身のレーベルからリリースしている。お店の片隅からフェスティバルにいたる日本中のあらゆる場所でライヴを行っている他、2000年代前半から韓国、2019年にはアフリカ・ケニア、2009年と2019年にはヨーロッパ各国で演奏を行った。音楽に対する広く深い理解と常にライヴの「現場」に立ち返る姿勢が、その曲と演奏に反映されている。最新作は2022年6月にリリースされた「船窓 / おろかな指」。

エマーソン北村ウェブサイト
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「船窓 / おろかな指」bandcamp
https://emersonkitamura.bandcamp.com/album/porthole-stupid-fingers

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