カルチャー

あの人のリーディングリスト。Vol.5

選書: 白川密成

2022年7月26日

illustration: Kenichi Watanabe
cover design: Fuya Uto
text: Missei Shirakawa
edit: Yukako Kazuno

あの人はどんな本を読んでいるのか?
気になるあの人たちのリーディングリストを教えてもらう連載。

第5回は白川密成さん。

『デザインの仕事』
寄藤文平(著) ・木村俊介(聞き書き)

デザインの仕事

今、日本のブックデザインは、何十年後の人たちが「この時代の本って、無茶苦茶いいなぁ」と古本を頬ずりするような時代だと思うんです。寄藤文平、鈴木成一、名久井直子、服部一成、大久保明子、矢萩多聞、新潮社装幀室…、そういったデザイナー達が作ったワクワクするような本が書店に並んでいる今の状況は、じつはとても特別なのだと思っています。僕の著書、4冊すべてデザインしてくださっているのも寄藤文平さんです。寄藤さんの単著もすごく好きな本が多くて、ほとんどの本を持っています。この本で、彼が感覚的でありながら、ものすごく多面的に深く「考えて」デザインをしていることを、知ることができます。年齢を問わず、また関わっている分野を問わず、「なにかを作りたいと思っている人」にとって、たくさんのヒントがあると思います。この本の聞き書きをされている木村俊介さんが、数多く作られている「聞き書き本」にもすごく読み応えのある本が多いので、未読の人は、よかったら木村さんの本も手に取ってみてください。

『分福茶釜』
細野晴臣(著)

分福茶釜

なぜか心がザワザワする時に、音楽家の細野晴臣さんの本を開くと、少し落ちつくことが多いです。パブリックなイメージよりも、いい意味で「ゆるい」ところもあって、そのあたりもほっとするというか、「そういう感じでもいいですよね」という感覚を受けとります。でも音楽に限らず、芸術とか創作の根っこには、そういう“ゆるしてくれる感”というか、「君がそこにいてもいいんだよ」という何かがあるんじゃないかと思うことがあります。仏教や祈りに関することにも触れられていて、うれしかったですし、ヒントにもなりました。細野さんがインドに行った時代に、YMOをやるか高野山に行くか、真剣に考えていたという日本の音楽シーン(と宗教シーン)の衝撃的事実については、中沢新一さんの対談集『惑星の風景』で読むことができます。星野源さんとの対談『地平線の相談』も好きだったのですが、本棚をいくら探しても発見できませんでした。本ってなくなりますよね。

『ブッダが教える愉快な生き方』
藤田一照(著)

ブッダが教える愉快な生き方

藤田一照さんは、私淑するお坊さんのおひとりで、たくさんの著作があり、訳書や坐禅の本格的な書物(とは言ってもすべて実践的なもなので、気になったら読んでみてください)も多い方です。この「学びのきほん」シリーズは、その分野の卓越した方に、できる限り「大切な事を短く、わかりやすく」というテーマを個人的に感じていて、著者もすごくおもしろい方が多く、鈴木千佳子さんのブックデザインもポップでシリーズを通して好きです。一照さんの本ですから、「法話」の「ありがたい話」という感じではなく、あくまで僕たちの生きているリアルな世界を舞台にしたものなので、はじめて読む方は、驚く人もおられるんじゃないでしょうか。“何かを求めているときには必ず緊張が生まれます。リラックスできるのは、起きていることをそのままにしておけるときだけです。そのとき、世界はまったく異なった様相をもって立ち上がってきます。(64ページ)”この本のそんなところに僕は線を引きました。ちょっとおもしろそうじゃないですか?

『悪人正機』
吉本隆明(著)・糸井重里(聞き手)

悪人正機

僕は、出版から「少し時間が経った本」を再読するのが、わりと好きなんです。古典のように評価のさだまったスタンダードだけでなく、「少し」というのが肝ですね。時代の流れの中で、新刊で出ていた時とは違った味わいがあることがあります。この『悪人正機』も、ふと今、読みたいと思った本です。「戦後最大の思想家」と言われることの多い吉本さんの主著は、なかなか気軽に手にとるにはびびってしまいますが、この本は、糸井重里さんが聞き手となって、ちゃぶ台で会話をするような感覚ですっと入って来ます。そしてそれが、なんとなくオートマチックで、持ってしまっている自分の「常識」を心地よく揺さぶるような感じで、おりに触れて開いてきた本でした。例えば、「モテル、モテないは距離の問題なんだ」「大学に行くのは、失恋の経験に似ている」など、普通に生きていたらまず考えないことだらけです。年齢を重ねられてからの吉本さんの本は、『ひきこもれ』『家族のゆくえ』など、じつは同じように読みやすいものも多くて、おすすめです。今まで糸井さんにも吉本さんにも触れたことのない若い方にもぜひ。

『マイ仏教』
みうらじゅん(著)

マイ仏教

みうらじゅんさんに仏教のことを書いた本がある! そのことを知らない人も多いでしょう。じつは発刊以来、版を重ねるロングセラーで、「仏教伝道文化賞」というシブイ賞も受賞しています。みうらさんの本なので、もちろんお坊さん以外にも愛読者の多い本ですが、密かにお坊さんのファンが少なくない本で、お互い秘密結社のようにカミングアウトしては、ニヤリと握手を交わしています。少年時代、念願の住職になったら寺の名前を、ジョンレノンの「イマジン」から「イマ寺院」とすると決めて、自分の部屋の表札にも「イマ寺院」と書くほどの、みうらさんの仏教愛に勇気を頂く気分でした。「あきらめる」「自分なくし」など、仏教の根本を突く視点も多く、いち修行者としても勉強させて頂きました。宗教の「団体感が苦手」というみうらさんの視点にも、大きな声では言えませんが自分にもそういう傾向があるので、共感しました。

プロフィール

白川密成

しらかわ・みっせい | 1977年生まれ。大学卒業後、地元の書店で社員として働くが、先代住職の遷化(せんげ・亡くなること)を経て、2001年24歳で愛媛県の四国八十八ヶ所霊場第57番札所「栄福寺」の住職に就任。「ほぼ日刊イトイ新聞」での連載が一冊になった『ボクは坊さん。』他『坊さん、父になる。』『空海さんに聞いてみよう。』『坊さん、ぼーっとする。』などの著書がある。2015年には『ボクは坊さん。』が映画化された。

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