ライフスタイル
【#2】夏空に、巨大なかき氷
2022年7月21日
photo & text: Yoshizumi Ishihara
edit: Yukako Kazuno
あまりの湿気に滲んで見える夏の太陽。突然、酷暑に喘いでいた街が、大きな陰に覆われる。冷蔵庫の扉でも開いたかのように、冷気が街を吹き抜ける。見上げた空は、まるで龍が舞い降りて来そうな、水墨画のような景色だった。
それは真夏の午後、連日の暑さから逃れたくて待ち焦がれていた夕立が降り出す直前の一コマだ。
夕立をもたらす積乱雲の底には、時として不思議な模様がある。規則正しく波状に凹凸があったり、豊満なオッパイのような型を見せることもある。その雲の名は、ずばり乳房雲。
暫くすると雲の底が平らになって、遠くで雷鳴が聞こえたかと思うと、大粒の雨が空から落ちてくる。ポタリ、ポタリ、大粒の雨は音を立てて地面を叩きつける。それでも、真夏の陽に熱せられていた街は雨粒を一瞬で蒸発させ、辺りには、ほのかに乾いたコンクリートの臭いが漂う。人々は一瞬ざわめいて、家路を急ぐ。
真夏の積乱雲は、時に上空15〜6㎞まで達する。カリフラワーがもくもくと大きくなるように積乱雲は発達する。それは猛烈な上昇気流の仕業。同時に雲の中には猛烈な下降気流も存在する。雲粒は積乱雲の中を上へ下へと吹き弄ばれていくうちに、互いにくっつき合って雨粒へ成長する。積乱雲は雲頂高度が高いから、上昇気流と下降気流に乗って雲粒は雲の中をひときわ長い距離を飛びまわる。その結果、無数の雲粒が結合し大きな氷ができあがる。質量が大きい氷は雲の中に滞っていることが出来ずに、地上へ落下してくる。高度一万メートル、気温−40℃の世界から氷は一気に落ちて来る。下界は35℃を超える灼熱の世界。氷は溶けずに地表に落ちれば雹。溶けて落ちれば雨となる。これがポタリ、ポタリの正体。
そう、積乱雲の中は氷の粒が飛び交う世界だ。酷暑の夏。ふと見上げた空に入道雲を見かけたら、そこに巨大なかき氷が浮かんでいると思えばいい。ちょっぴり暑さが柔らぐはず。それが僕の夏のおすすめ。
プロフィール
石原良純
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