TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】芸術作品としてのカタログ:Snow Lion 1978

執筆:Outdoor Recreation Archive

2025年10月18日

Outdoor Recreation Archive


text: Outdoor Recreation Archive
translation: Tsukasa Tanimoto
edit: Miu Nakamura

ユタ州立大学のOutdoor Recreation Archive(アウトドア・レクリエーション・アーカイブ)には、何十年にもわたって発行された数百ものブランドのカタログや雑誌が、何千点も収蔵されている。これまであまり知られることのなかった印象的なアーカイブのビジュアルをInstagramで公開し始めたことで、世界中から注目を集めた。アウトドア産業の歴史を振り返ると、カタログの表紙には手つかずの自然風景や険しい山頂に挑むクライマー、野外で過ごす家族の姿が多く描かれてきた。ブランドが時代とともにどのように自らを表現してきたのか。その変遷をたどることが、このアーカイブの大きな魅力でもある。なかでも特に目を引くのが、アウトドアへの情熱とシュルレアリスム的な芸術表現を融合させ、強烈な印象を残すSnow Lion(スノー・ライオン)の1978年版カタログだ。

Snow Lionは、1960年代後半から1970年代にかけてのバックパッキング・ブームと環境保護運動の高まりの中で人気を集めたブランド。高品質な寝袋やアウトドアギアで知られ、共同創業者のBill Simon(ビル・サイモン)が1972年に台湾を訪れたことをきっかけに、アジアで初めてテクニカルアパレルを生産したアウトドア企業のひとつとなった。それまでのカタログでは、著名なクライマー兼写真家のGalen Rowell(ゲイレン・ロウェル)による写真が中心だったが、Snow Lionは新たなビジュアル表現を模索する中で、彫刻家でありアーティストでもあるBruce Wolfe(ブルース・ウルフ)に1978年版のカバー制作を依頼した。

Pink Floyd(ピンク・フロイド)やKansas(カンサス)のアルバムカバーを手がけた経験を持つウルフは、このプロジェクトに劇的でシュルレアリスム的な感性を持ち込んだ。実際のスノーライオンの頭蓋骨を参考にしながら、写実性と想像力を融合させ、二つの雪山の峰が咆哮するライオンの姿に見えるよう描き出した。幻想的でありながら象徴的な最終ビジュアルは、登山者たちを挑発するかのように見下ろし、冒険心と山の神秘性を体現している。

Snow Lionの1978年版カタログは、2018年にOutdoor Recreation Archiveに寄贈された最初期のアイテムのひとつである。数千点の資料が追加された今でも、最も印象的な作品として存在感を放っている。その魅力はウルフの絵画が放つ幻想的な力なのか、それとも商業カタログとしては稀有な芸術性によるものなのか。いずれにせよ、この作品は数十年を経た今も人々の目を惹きつけ続けている。

皮肉なことに、Snow Lionはこのカタログが発行された同じ年に廃業してしまった。しかし、この最後の出版物は、小規模ブランドが活躍し、クリエイティブなリスクを取り、アウトドア愛好家がデザイナーへと転身していった時代を象徴している。Snow Lionの1978年版カタログは、当時のカタログが単なる広告ではなく、人々に夢を見させ、未知へと踏み出すきっかけを与える芸術作品でもあったことを思い出させてくれる。

プロフィール

Outdoor Recreation Archive

ユタ州立大学の図書室に併設された、1900年代から現在までのギアカタログや広告、ブランド資料を蒐集、保存するアーカイブ機関。広報活動と新たなコレクションの発掘を担当するチェイスと、寄贈された資料の整理、記述、保存を担当するクリントによって運営されている。コレクションは1万5000点を超えており、書架は誰にでも開かれている。

Official Website
https://library.usu.edu/archives/ora

Instagram
https://www.instagram.com/outdoorrecarchive/