カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.1
紹介書籍 『うしろめたさの人類学』
2022年3月16日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
2021年3月 Web初出
クソみたいな世界の変え方
「世界はオレたちが変えてみせるぜ!」とボーカルが叫び、演奏を始めるハードコアパンクバンドがいた。その叫びには、パンクの大事な部分がギューっと凝縮されている。パンクは世界に合わせて自分を変えるのではなく、自分が変わることで世界を変えることを目指す音楽文化だからだ。
私もこのクソみたいな世界を変えたいと思い、的確な政権批判をリツイートしたり、パンクバンドでドラムをドコドコ叩いたり、社会への怒りを高架下の焼鳥屋で叫んだりして世界を変えようと試みてきた。しかしながら、相変わらず世界はクソみたいなままで、むしろ悪化しているように見える。やっぱり私が世界を変えることはできないし、自分も相変わらずダメなままだな。
そんな諦めや虚無感を感じている時に『うしろめたさの人類学』を読んだら、希望がムクムクと沸き起こってきた。
本書の著者である文化人類学者の松村圭一郎は、冒頭で「世の中どこかおかしい」と述べながら「どこから手をつけたらいいのか、さっぱりわからない。国家とか、市場とか、巨大なシステムを前に、ただ立ちつくすしかないのか」(P.8)と途方に暮れる。
本書はそこをスタート地点として、自分と国家、自分と市場、自分と社会との繋がりを、手の届く場所まで取り戻していく。無意識に線引きして「向こう側」にしていたものたちについて、境界線を引き直して「こっち側」にしていく。
自分と世界との繋がりを取り戻すために、著者はこう言う。
「世の中を動かす「権力」や「構造」、「制度」といったものは、とても巨大で強力だけれども、まずはすべてをその「せい」にすることをやめてみる」(P.77)
例えば、社会の格差について。
日ごろ「なぜ社会の格差はなくならないのだ。国は一体なにをやっているのだ」と社会の格差を嘆き、それを国のせいにしながら街にいるホームレスを見てみぬフリして通り過ぎる。社会の格差を巨大な何かの「せい」にして、自分にはどうすることもできない境界線の「向こう側」にしてしまう。
それ以外にも、生きづらさを資本主義社会の「せい」にしながら自分はグローバル企業で大量生産されたモノを消費をしたり、仕事はお金を稼ぐためと割り切ってクソどうでもいい仕事をしたり。いつの間にか巨大な何かの「せい」にして境界線を引き、世界を自分の手元から離してしまっていることのなんと多いことか。
著者は初めてエチオピアを訪れた際、物乞いにお金を渡すかどうか逡巡する。日本人には物乞いにお金を渡してはいけないという「あたりまえ」がある。著者も最初は物乞いにお金を渡さずにいたが、自分よりも裕福ではないはずのエチオピアの人々が物乞いにお金を分け与えていることに気づき、自分がいかに「あたりまえ」に縛られていたのかを痛感する。「自分にはどうにもできないこと」として境界線を引くことをやめ、物乞いにお金や物を渡すことで著者とエチオピア人との間につながりが生まれる。
「「つながり」は次の行為を誘発し、「わたし」とは切り離されたようにみえる世界のなかに、小さな共感の輪をつくる。その輪が、ぼくらがこの世界につくりだせるスキマとしての「社会」だ」(P.185)
境界線を引き直すことで世界は広がる。一人一人の行動、他者との共感の輪が網目のようになって大きな世界を構築していると考えれば「世界はオレたちが変えてみせるぜ!」というパンクバンドの叫びも、ぐっと現実味を帯びてくる。日常の思考と行動を変えれば、それが最初の一歩になるのだから。
紹介書籍
うしろめたさの人類学
出版社:ミシマ社
発行年月:2017年10月
プロフィール
小野寺伝助
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