カルチャー

しまおまほのセクよろ/season2

第8回:放屁の逡巡。

2022年1月12日

text & illustration: Maho Shimao
2022年2月 898号初出

 今、この瞬間、このタイミングで出来たら、絶対に、間違いなく大爆笑をとることができるのに……! 人生の中でそんな一瞬が数回あった。でも、出来たためしがない。放屁が。

 昔、ビートたけし扮する鬼瓦権造が見目麗しい着物姿の女優とのコントで、膝の上に乗る瞬間不意にオナラをしたのをテレビで見て、転げ回って笑ったと同時にとても羨ましく感じた。鬼瓦権造のオナラのチャーミングなこと! そして女優の膝にお尻が触れるか触れないかに「プッ」とやる絶妙なタイミングよ! ドリフでよく聞く効果音のそれとは違う、マイクが拾えるギリギリの音量のリアルな放屁。ああ、わたしもオナラで爆笑をさらってみたい! そう思った。

 以前、人前でもオナラができるような社会に! と「屁レボリューション」を起こすべく地道に街中で放屁活動をしているとこの連載で書いたけれど、よくよく考えればこの活動の原点は、このたけしの存在が大きい。たけしのオナラって本当に最高なんだよなあ。たけしのオナラ術をわたしは尊敬している。

 冒頭にある「人生の中で数回あった一瞬」だけれど、その何回かを覚えている。ある時はとある会議で。その場にいる全員の会話が止まったタイミングで急に腸から空気が降りて来るのを感じた。マジで! この空気の感じ、いい音出そうなんですけど! 今したら絶対にウケる! メンツ的にも笑って許してくれる人ばかり! ここはするしか……いや、やめとこう……。

『スゥゥ〜』

 笑ってもらえるハズだったガスはその存在を伏せられたまま騙し騙し……注意深くゆっくりと椅子のクッションに吸われていった。

 またある時はラジオの生放送中。パートナーの宇多丸さんと取り留めのない話が盛り上がり。会話にグルーヴが生まれてお互いにくだらないエピソードをかぶせにかぶせあっていたその時。あ、出そう! これ、いいオチになる! 笑いを最高潮に持っていける最強の武器が今、わたしの腸内を滑り降りてきてる! やばい! 公共の放送で! やっちゃう? 爆笑問題の年間珍プレー好プレー狙っちゃう? できるか、わたし? いけ! ほら! 今! ………やっぱ怖い……。

『……スゥゥ〜』

 はあ……いくじなし……。

 音を出さずに空気を抜く作業に集中力の3割を持っていかれ、宇多丸さんとの会話も尻すぼみ(オナラだけに)。

 普段ヘラヘラ生きていて何の意見もないわたしですが、こういう時ばかりは男女の格差を感じるんです。嗚呼!

プロフィール

しまおまほ

漫画家、エッセイスト。1978年、東京都生まれ。最新著は子供にインタビューしたルポルタージュエッセイ『しまおまほのおしえてコドモNOW!』。