カルチャー
あの人のリーディングリスト。Vol.2
選書:夏帆
2021年11月25日
text: Kaho
edit: Yukako Kazuno
あの人は今どんな本を読んでいるのか? 気になる人たちに最近読んだ本を教えてもらう新連載「あの人のリーディングリスト」! 第二回は夏帆さん。
『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』
斎藤倫著
詩とどんなふうに接したらいいのかわからず、国語の授業で習っても、あたまに「?」が浮かぶばかりで、なんだか気むずかしいものだと思っていました。そんなあの頃のわたしにこの本をそっと手渡してあげたい。いや、きっと今からでも遅くない。大人の『ぼく』と少年の『きみ』との対話のものがたりは、ゆったりと心地よく、こころのなかにすとんと落ちます。言葉と言葉のあいだにあるもの、そんな隙間からみえるものこそ、自由でとてもゆたかなものだと『ぼく』は教えてくれます。言葉にするまえの音を、言葉にしようとしたあとのその想いを、素直に感じとることができたら、きっともっと楽しい。高野文子さんの画、名久井直子さんの装丁もすばらしくて、まるごと抱きしめたくなります。
『おとなの味』
平松洋子著
歳を重ねて味覚が磨かれていくにつれ、子どもの頃には知り得なかった至福の味わいに出会えるのだと思うと、おとなになるのも悪くないですね。世の中の変化とともに、日々の暮らしを丁寧に送りたいと考えることが増えました。そんななかで、心身ともに健康でいることと、食は切っても切れない関係だとあらためて感じます。生きるためにお腹を満たすだけではなく、四季をいただくことの豊かさ、尊さ、だれかと食卓を囲むことのよろこび、そんな些細なことも、平松さんのように愛情をもって向き合っていきたい。そういう大人になれたら、この先の人生いちだんと味わい深くなるのではないかと思うのです。
『変愛小説集』
岸本佐和子編訳
“変”愛小説集というだけあって、一風変わった“恋”愛アンソロジーです。怖いものみたさで読み進めていましたが、だんだんと癖になり、ページをめくる手がとまりません。木に恋をする女性、妹のバービー人形と付き合っている少年、気に入った男の子をまる飲みしてしまう人妻だったりと、設定こそ常軌を逸していますが、変愛であればあるほど、純愛なんですよね。『純粋な姿を突き詰めて描こうとすればするほど、ねじれた、へんてこな、グロテスクなものになっていく。恋愛とはそういうものかもしれない』という岸本さんの言葉に、妙に納得です。
『急に具合が悪くなる』
宮野真生子 磯野真穂著
ほのぼのとした表紙とは対照的に、これはふたりの学者の真剣勝負。読者であるこちらも、息を詰めながら勝負の行く末を見守ります。がんが転移し『急に具合が悪くなる』と主治医に告げられた哲学者の宮野さん。病、生と死、出会い、別れ、運命、偶然と必然、そして自己とはなにか、その問いに挑むために、伴走者として選ばれた人類学者の磯野さんは、時には直球で鋭い球を投げつづけます。両者の覚悟と深い知性で紡ぎだされた言葉を受けとることで、その思想にふれ、特別な時間を共有し、『その先の始まりに充ちた世界』をわたしもみつめることができたように思います。手元に置いて、理解を深めていきたい。出逢えてよかった一冊です。
プロフィール
夏帆
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