ライフスタイル
【#1】イン・アザー・ワーズ,シカゴ.
2021年11月14日
text & illustration: Korey Martin
translation: Catherine Lealand
ジャズと数学とズボン
毎朝、パートナーが2000年製のスバル・フォレスターで街のパン屋さんに出勤する前、僕はコーヒーを入れながらレコードをかける。たいていはジャズで、Sun Raが多い。うるさくないといいな。そう思いつつ暮らしている僕らの新居は、シカゴの歴史的な地区ローガン・スクエアにあって、大通りやジバリート、ローガン・シアター、お気に入りのコーヒーショップ「4LW」などがあることから選んだ。彼女が仕事に行ってしまうと、部屋には僕と猫たちと、それからうるささへの不安だけが残る。その不安が僕をあらぬ妄想へと導く。寝ている隣人のすぐ近くで、マイルス・デイビス・クインテットが演奏している姿だ。
シカゴは秋にとりわけ輝く。だけど、シカゴの住人たちはすぐにまたあのつらい冬が来ることをよく知っている。見知らぬ人たちとでも通りすがりに「シカゴ!」と言葉を交わすのは、自分たちがどこにいるのかを思い出すためだ。にもかかわらず、シカゴの住人たちが嫌うこととして知られるすべてのものーー絶えることのない建設工事、おんぼろの「L」列車、苦いマロート(シカゴのリキュール)ーーは、僕がこの街を愛する理由になっている。毎年冬になると宣言する。「今年で最後だ!」と。だけど、ここに留まっている。謎だ。
タータンチェックのスカーフを巻いて、洗濯物を地下のランドリールームに運ぶ。最近、古いドアに数学の方程式が書き込まれているのを見つけた。それは既に誰かによって解かれたものだけど、今の僕にとってはミステリーだ。こういうものを僕は”ノンス “と呼んでいて、僕の作品の多くはこの手のものからインスピレーションを得ている。ただ、最近の私の関心の大半を占めているのは、間違いなくズボンだ。
何十年もの間、僕の中で「完璧なズボン」というものは存在しなかった。だけど先日、Alcala’s Western Wearを訪れた際、50年前のラングラーの山の中に、完璧ではないにしても、少なくとも現時点でのベストと言えるズボンを発見した。Wrangler 13MWZは、シカゴのアーティストやミュージシャン、シェフ、運び屋、たまにカウボーイがよく履いているが、私が選んだのは70年代の微妙なシルエットで、12インチのライズ、ナイフのように鋭いプリーツのWrancherだ。ワードローブのAdidasとヴィンテージのクルーネックを、感性を損なうことなく調和させてくれる。
ズボンについては、永遠に語り続けることができる。ズボンについて語ることは、まさに街について語ることの別の方法だと思う。スタジオで仕事をしていても、フリーマーケットで買い物をしていても、でこぼこの電車に乗っていても、シカゴの冬に耐えていても、このズボンは、この街で生活し、仕事をする僕を補ってくれている。今日は、前回のAlcala’sへの旅で忘れてしまったボトルグリーンのズボンを探し、裏で黙々と仕事をしている驚くべき速さのテーラーを訪ね、どうして僕がこれほどまでに街というものを愛しているのか思いを馳せてみよう。誰もが常にどこにでもいる。すべてのことに誰かが関わっている。
街では、あらゆる場所に意味を見出すことができる。その意味がよくわからない場合もあるけれど、自分にとって意味のないことでも、誰かにとっては意味がある。見慣れないもののなかにも、見慣れた部分はあるのだ。ランドリールームの中の方程式や、他人のズボンの趣味のように。
英語版
↓
Jazz, Math and Trousers
Each morning, before my partner drives our 2000 Subaru Forester to work at a bakery across town, I play a record while making us coffee. Usually jazz, often Sun Ra. I worry that we are noisy tenants at our new apartment in Logan Square–a historic Chicago neighborhood we chose for its boulevards, jibaritos, Logan Theater and favorite coffee shop, 4LW. Once she leaves, I’m alone with our cats and my fears of being noisy. It makes me imagine the Miles Davis Quintet performing over my neighbors as they sleep.
Chicago shines in autumn, but Chicagoans know well that autumn becomes winter–a time when strangers exclaim “Chicago!” in passing as if to remind ourselves where we are. But everything you hear Chicagoans decry – the constant construction, rickety “L” train, bitter malört – are the things that endear me to the city. Every winter I declare, “This’ll be my last!” Yet, I’ve stayed. A mystery.
Wrapped in a tartan scarf, I bring laundry to the basement, where I recently found a math equation scrawled on an old door. It was once someone’s solution, but now it is a mystery to me. I call things like this nonces, and they inspire much of my artwork. But, honestly, lately trousers have consumed most of my attention.
For decades the “perfect trouser” has eluded me, but during a recent visit to Alcala’s Western Wear I found something among their 50-year-old stacks of Wranglers that, if not perfect, are at least my trouser du jour. While the Wrangler 13MWZ is commonly worn by Chicago artists, musicians, chefs, couriers and the occasional cowboy, it’s the Wrancher’s subtle 70’s silhouette, 12” rise, and knife-sharp pleats that I’m returning for today. They harmonize my wardrobe of Adidas and vintage crewnecks without sacrificing sensibility.
I could talk about trousers forever. I suppose talking about them is really another way of talking about the city. Whether working in my studio, sifting through flea markets, riding bumpy trains, or faring Chicago winters, these slacks complement the ways I find myself living and working in the city. Today, I’ll search for the bottle green pair I left behind on my last Alcala’s trip, visit the bafflingly fast tailor working quickly and quietly in the back, and remember why I love cities so much. Everyone is everywhere all of the time. Everything involves someone else.
In the city, everywhere you look you find reason, even if that reason eludes you. Whatever doesn’t make sense to you makes sense to someone else. You sense the presence of familiarity even when you are unfamiliar, like equations in a laundry room or a stranger’s taste in trousers.
プロフィール
Korey Martin
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