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Re: view – 音楽の鳴る思い出 -/Vol.1 菊地佑樹

2021年12月22日

photo & text: Yuki Kikuchi
translation: Bowen Casey

Re: view (音楽の鳴る思い出

この連載は様々なミュージシャンらをゲストに迎え、『一枚のアルバム』から思い出を振り返り、その中に保存されたありとあらゆるものの意義をあらためて見つめ、記録する企画です。


今回の執筆者

■名前:菊地佑樹
■職業:フォトグラファー、ライター
■居住地:東京
■音楽が与えてくれるもの:原稿に書いたこと
■レビューするアルバム:『ディス・オールド・ドッグ』/マック・デマルコ

『ディス・オールド・ドッグ』/マック・デマルコ(2017年)

ふたたび、みつめる

 その時にその音楽が鳴っていたからこそ、いまでも忘れることのない思い出がある。2017年、フォトグラファーとしてマック・デマルコのアメリカ・ツアーに参加したとき、中学生になったばかりだというキッズたちととあるショーで出会った。彼らはステージに一番近い場所を陣取り、ライヴ中、叫んで笑い抱きしめ合って、ただでさえ煌びやかなマックのライヴをより一層輝かしいものにしていた。そんな彼らの様子をステージの上から眺めていると、色んな感情が込み上げてきて、ぼくはすかさずカメラを彼らに向けると、残りの少ないフィルムを気にすることなく、まるで何かに取り憑かれたように、無我夢中でシャッターを切り続けた。

 それから4年が経ち、あの時のキッズはもう高校生になって、別々の学校に通うことになったかもしれない。あの仲良しグループは解散してしまったかもしれないし、その中にいた何人かはもうマック・デマルコに夢中じゃないかもしれない。余計なお世話で考えすぎだと言われたらそれまでだけど、僕自身、もう会えなくなってしまった友達や、見ることの出来ない景色など、その時は奪われるなんて思わなかった未来を、たくさん失ってきた。  

 物事が移り変わっていくことを否定したいわけじゃない。むしろそれはごく自然で当たり前のことだ。でもだからこそ、その瞬間に見たもの、感じたこと、匂いまで、それらを共有した人たちのことを、一つにまとめ真空パックしてくれる音楽を、そしてその音楽がその時に鳴っていたからこそ、いまも振り返ることのできる思い出があることを、これからも大事にしていきたいと思う。

『Re: view』と題したこの企画では、一枚のアルバムから思い出を振り返り、その中に保存されたありとあらゆるものの意義を、あらためて見つめ記録したいと思う。

文・菊地佑樹

執筆者プロフィール

菊地佑樹

きくち・ゆうき|1990年、東京都生まれ。ライター、フォトグラファー。世界の音楽カルチャーに自ら飛び込み、現行のリアルなシーンを写真や文章で記録し続ける。