ライフスタイル
【#2】生活の小話
2021年9月21日
photo & text: Mototsugu Fujii

もともとの貧乏性のせいなのか、珈琲を淹れきったあと、その出がらしで二番煎じをしてしまいます。それをアルミの急須に入れ、冷蔵庫で冷やしておいて、翌日思い出したように飲む。二番煎じ冷珈。もちろん美味しくはないのですが、薄味のとろとろを飲むのは夏にちょうどいいのです。
靴下は外出から帰ってくると、すぐに脱いでしまいます。まだ一時間ちょっとしか履いてないから、また夕方には同じのを履こうといつも思っておるのです。一日に何度も脱ぎ剥ぎをくりかえしているうち、なぜか片方が行方不明になっております。そんなときのために、靴下は同じ色のものを何足も買っておくのです。相手に先立たれたひとりもん同士の再婚。と思っておったら、いなくなった片割れがひょっこり帰ってくるなんてこともありまして…。情けない処世術です。
いつかの大晦日、友人と酒盛り用の酒を買いにいったときの話です。せっかくの年の瀬ですから、それなりにいい酒を買おうということになりました。量もけち臭いこと言わず、一升瓶でどーんと。あれは亀齢という広島のお酒でした。彼の自転車の後ろ籠にのせて、二人で呑気に走り出しました。そこまではよかったのですが、途中、広い駐車場を突っ切ようとした時にです。彼の後輪が車止めに引っかかって横転。体が真横になるほどこけてしまいました。そのとき、後ろに積んでいた酒はものの見事に木端みじん。僕がとっさに声をかけた「大丈夫ですか?」は彼にかけた声ではありません。酒にです。そうして当のこけた本人も、こけながらにして、後ろの酒に目線がいっていたのです。広い駐車場の端っこで広がる甘い酒の香り。僕はたまらず、その酒溜りに指をひたして舐めてみました。「甘いよ、この酒旨いやつだよ」あの時の彼の悲しそうな顔を今でも忘れることができません。
たわいもない日々のあれやこれや。生活というのは概して地味なものです。ドラマのような日々が続くことはそうそうありません。せいぜい小咄になる程度です。人間そんなもんなのかなと最近はよく思います。豊かな暮らしに憧れてしまう方もいらっしゃいますが、ああいうのは雑誌で眺めながら薄い二番煎じを飲むくらいがちょううどよいのかなと思います。生活まで誰かの二番煎じすることはありません。
プロフィール
古本屋弐拾dB店主(藤井基二)
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