カルチャー
第2話: ヒンジ・フィンガー
文: ジョイ・オービソン
2021年9月6日
text: Peter O'Grady as known as Joy Orbison
translate: Miho Haraguchi
edit (Japanese): Wataru Suetsugu
2021年 8月初出
遡ること2010年、僕のデビューシングル「Hyph Mngo」がリリースされて約1年が経った頃、初めて海外でのDJが決まりました。奇妙なことに、それはベルリンの超有名クラブ、Berghainでの仕事でした。残念なことに当時の僕はそのベニューがどんな場所なのか全く知りませんでした。MoodymannやActress、Will Bankheadもラインアップされていて、僕の記憶が正しければZipやRicardo Villalobosが上階のPanorama Barでプレイしていたはずです。本当にめちゃくちゃな旅でした。しっくりくるセットを思いつくまで、あの洞窟のような空間を何時間も歩き回っていたのを覚えています。何をプレイしたらいいのか、なぜ僕のDJが朝の7時に始まるのか、自分がこのブッキングを受けるに値するDJだったのか、さっぱりわかりませんでした。しかしそんな考えは杞憂に終わり、DJはかなり上手くいって(UKファンキーをとにかく沢山プレイしました)、その旅全体が自分にとって忘れられない経験になったのです。
このコラムを読んでくれている人の中には、Will Bankheadが自身のレーベルである〈The Trilogy Tapes〉をはじめ、〈Mo’ Wax〉や〈Honest Jon’s〉のために手がけた最高に素晴らしいデザインの数々とその功績を知っている人がいるかもしれません。ベルリンのKottbusser Tor近くにある風変わりな地下のパブで彼を紹介されて、次の週末から僕たちは2011年(くらい)にレコード・レーベル〈Hinge Finger〉を共に始めるべく動き始め、いくつものリリースやプロジェクト、パーティーのために2人で作業を重ねていきます。彼は本当に刺激的な存在で、あんなにもクリエイティブで妥協を知らない人間が自分の人生の一部であることは、本当に幸運だと思います。
しかし、最も話したいのは、僕たちが初めて出会った時にパブでWill Bankheadが僕に言った言葉です。その言葉があったからこそ、僕たちは一緒に仕事をするようになり、そして結果としてレコード・レーベルまでをもスタートさせるに至りました。彼の言葉をそっくりそのままは覚えてはいませんが、「君の叔父さんはRay Keithなんだよね? 彼はグネっとしたリングをはめてるよね?」みたいな感じだったと思います。その言葉があったからこそ、僕はあの「ヒンジ・フィンガー」リングに魅了されるようになっていったのです。
90年代半ばの多くのジャングル、ドラムンベースのDJたちと同じように、Rayはジュエリーが大好きだったし、そのことで彼は知られていたように思います。子供の頃、僕はRayのダブプレートに目を通したり、ミキサーの使い方を探ったり、彼がターンテーブルの横に置いていたジュエリーをじっと見たりしてRayと僕のいとこの住む家で過ごしていました。光り物がいくつもあるなかで僕が一番の宝物だと感じたのは、Vivienne Westwoodのゴールドの「ヒンジ・フィンガー」リングでした。
今では、そのリングは一般的に「ナックル・リング」とか「アーマー・リング」と呼ばれているはずです。なぜWillと僕が「ヒンジ・フィンガー」と呼んでいたのかハッキリとは覚えていませんが、彼の言葉のセンスがまるで魔法のようだったことは確かです。
このアイコニックなリングについてもっと詳しく知りたいと思った人がいるかもしれませんが、悲しいことに僕には十分な知識がありません。だけど、このコラムをきっかけに、自分自身で答えを見つけてくれたら嬉しいです(僕はめんどくさがって、調べることをしなかったので)。
Rayいわく、その「ヒンジ・フィンガー」リングはMC Navigator(当時のRayのジュエリー・アドバイザー)を通して手に入れたもので、2000年代半ばにはどこかに無くしてしまったそうです。その頃僕はまだ10代はじめだったので、実物を目にすることはできませんでしたが、そのVivienne Westwoodのリングは僕が思い描く90年代半ばのドラムンベースそのものです。彼らがハイエンド・デザイナーブランドをどのように非文脈化して、ホクストンの地下クラブという異質な環境にいざなったのか、僕がそういった音楽から聴き取ることができる気品と精巧さをジュエリーがいかにリフレクトしていたか、という点に僕は大きな魅力を感じます。
僕はこのコラムを書きながら、自分がもっとこのアイテムについて知るべきだと気がつきました。なので、もしこれを読んだ誰かがその真相に辿り着けた時には、hingefinger@gmail.comまでメールをもらえると嬉しいです。
読んでくれてありがとう x
プロフィール
ジョイ・オービソン
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